ぼくのはじまり 2
「おまえさ、こんなふうに考えたことある?」
今から20年近く前、私は国内製薬会社のプロパー(営業)と
呼ばれる職業に就いていた。
現在はMRと呼ばれている。
北海道の「釧路」や「根室」地方の担当者だった。
月曜日の朝に1週間分の着替えを詰めた大きなバックを肩に背負い
ホテル住まいをしながら金曜の夜に札幌へ戻る暮らし。
20代後半だった私は「出張日当」とか「経費」とか云う恩恵に依存し、
毎日のように出歩いてはネオンに吸い込まれていた。
「おまえさ、こんなふうに考えたことある?」
年代の近い医師ともよく飲みに出歩いたものだ。
いつも飲み歩いては大笑いして馬鹿な話で盛り上がり、
何度、窓に夜明けを見たことだろう。
ある日、珍しくホテルの部屋で安い日本酒をちびちび飲んでいると
電話のベルが鳴った。
「ちょっと、街に出て来ないか?」
「珍しいっすね、先生のほうから呼び出しなんて」
30分後、港に近い釧路のBARの止り木で二人は
ハーパーのロックを飲んでいた。
バーボンのきつい臭いが鼻の奥を刺激する。
「入院していた患者が今日、亡くなったんだ。
ずっと、面倒を診ていたおばあちゃんなんだ。
何とか、助けたかったんだよなあ。
でもな、今日の夕方に容態が急に悪化してな。」
先生は少し遠くを見るような眼で、そう言った。
「何だか、飲みたい気分でさ。
でも、一人では飲みたくなくて。
悪かったな。」
「いや、先生の気持ち、わかるから。」
「おまえさ、こんなふうに考えたことある?」
『明日の朝も普通に眼が覚めるって
奇跡の連続なんだって・・・』
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