ぼくのはじまり 31
ぼくの意識をかえた言葉
若い頃は何時までも走り続けていられた。
若い頃はどんな遠くの街へも疲れを知らずに移動出来た。
何かあっても気にならなかった。
失敗を失敗と思わない気楽さ(鈍感さ)があった。
それなりに元気があって(それが取り柄)、私は日々を楽しんでした。
ある時に上司が替わり営業所内の雰囲気は一変した。
今に思えば上が変わるとそれだけで全てが変わる典型だった。
さほどの能力もないハリボテの管理職に私達は翻弄された。
当時はもともと軍隊的な会社で「目標数字が達成できないなら帰ってくるな!」「1時間おきに現状を電話で報告しろ!」というような恐怖政治を始めた輩だ。
純情(笑?)な私は取り合えず上司の指示に逆らうことなく、たんたんと自分の業務をこなしていた。 つまりそれなりの実績を出していた。
期が変わり業績が順調だった私のエリアに「ドン」と目標が上乗せされた。
その時は「期待されているのなら仕方がないことか」とその話を受けた。
翌月から簡単には達成できない目標に対してとてつもなく厳しい追及が始まった。
この辺りは、それはそれで面白いエピソードが一杯ある。
(20年前の話だけどね)
なんだかんだ言いながらもゆっくりと私の顔にも疲労感や悲壮感が現れていたんだろうな。朝早くに卸へ行って実績の詰めをお願いしたり、夜遅くまで医療機関で発注をおねがいしたり...。
ある朝、卸の支店長が私を見かねて応接セットに呼び招いた。
支店長にも今度の上司の話は十分に伝わっていたようだ。
「どうだ、ヤナちゃん、調子は。 ん?。」
「まあ、大変ですが何とかやってますよ。大丈夫っす!」
「ちょっと、最近、きつそうだぞ。」
「いえいえ、何の何の」
「俺は立場上、あまり、こういった話をしてはダメなんだろうけど、
前から思っている事があるんだ。」
(もう時効だからいいよね)
「製薬会社の使命って何だと思う?」
「なんですかねェ。 やっぱり人々の健康を守るための...」
「そんな事は当たりまえさ。」
「製薬会社の最大の使命は、"黙っていても売れるくらいの素晴らしい
医薬品を開発すること"だと俺は思っている。
営業マンが頭を下げたり、接待したり、競合品をあれこれ言ったり、
朝早くから、夜遅くまで馬車馬のように駆けずり回らなくてもいいほどの
薬を開発して世の中に出す事が製薬企業の使命だ。
そんな事をしなければ売れない薬を売ってこいというのは苦しいのはただただ営業部隊だ。」
「ヤナちゃんが、これだけ頑張っても厳しい薬ならきびしいんだって。
大手メーカーが同じものを売ってるじゃないか。」
「よく営業マンの努力が足りないとか、資質が低いとか、知識が足りないとか言うけれど、それも確かに良く解る。 無いとは言わない。
でも、その前に「それは売れる薬か」じゃないか?。
会社は営業マンのお尻をたたいたり、脅したり、ボーナスで釣ったりするけれど、その前に開発部門に対して「良い薬を開発せよ!」が先にあるはずだ。
「おっ!これは!」という薬を開発することさ。」
わたしの中で何かが変わった...
(ほんの少しのうねりだけれど)
この内容をこのまま鵜呑みにすると誤解を生じる事もあると思う。
製薬企業は奥が深くてひとつの事柄だけで判断できないことが本当に多いから。
まずは「サラリ」と受け流していただきたい。
ただ、「ものが売れない」=「営業が悪い」ではないことを言いたかった。
これは全ての市場原理に当てはまると思う。
ただ医薬品の場合は「生」とか「死」とか「治癒」に関わる事だからそれは尚更なんだろうと思うわけ。
それぞれに役割があるということ。
みんなの理解と努力が必要だということ。
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