ぼくのはじまり 27
せ、先輩!いったい何を!
22年前。
私がまだ24歳のころ。
まだまだ新人。
「君、道東地区を担当してくれないか?」という上司の言葉から
私の遥か長く遠い出張生活が始まったわけだ。
今までは10歳も年上の先輩が担当していて、おおきな商業圏に力を入れるために
そこへ先輩は異動になった。
時期的にじっくりと「引き継ぎ」をしている場合ではなかった。
人手不足のこともあり短期間でさっさと終えなければならなかった。
道東地区へ趣き、地域の重要かつ取り引きの大きな施設を重点的に挨拶を
して回ることにならざるをえなかった。
細かな引き継ぎはノートにメモをしながら、会話をしながら...。
北海道の東の果ての背伸びをすると北方領土が望める街にも
少し前まで当社の主力品をそれなりに処方してくださる医院があった。
最近はほとんど処方が出ていない。 何かあったのだろうか?
「先輩、○○市の△△医院は最近あれだけあった処方が止まってますね。
何かあったのですか?
それで、引き継ぎには行かなくてもいいのですか?」
「あ、ああ。 あそこはいいや。 まあ、機会があったら行ってみてよ。
今回は時間もないしな...。 挨拶は...しないで行くわ...。 うん、まあ。」
(歯切れの悪い報告)
「ふ~ん。 そうっすか。 わかりました...。」
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その後、私が担当者になりしばらくたって道も分かり始めたころ。
「そうだ、○○市の△△医院でも行ってみるか。
処方が他社品に切り替わったのなら理由もきいてみたいしな。」
初夏の爽やかな風を受けながら私は走った。
目的の医院のたたずまいは少し古ぼけていたが近所の人々に
頼りにされているだろうな...という感じが伝わってくる。
木造の医院。
開け放しの玄関。
心地よい風が院内を吹き抜ける。
昼も近く受付に人影もなかった。
診察室から談笑が聞こえる。
「失礼します! ○○製薬ですが!」 玄関先で叫ぶも反応乏しく。
さらに大きな声で「失礼します! ○○製薬ですが!」 ・・・
こちらの声が院長には届きにくかったようだ。
「おお~い。 誰だあ。 入ってきていいぞ」と渋くて太い声。
靴を脱いでスリッパに履き替え診察室の前に。
中には椅子に座った院長らしき人物とスタッフと思われる女性たち。
「どこの薬屋だ?」
「○○製薬と申します」
一瞬走る緊張感。 院長の顔が変わった。
「よし、そこから動くな。 そしてそのままUターンをしてまっすぐ出て行きなさい。
そして二度と来なくていい。」
「新任の柳田と申します。 何かありましたでしょうか?」
「前任者に聞け。 話す気にもならん!」
事情がわからないまま「出入り禁止」の私。
"可哀そうに" という目で私を見るスタッフ
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私は長い営業経験のなかで、この一度だけ「出入り禁止」を経験した。
しかも 「私のせいではないのに!」(笑)
先輩にすぐ連絡。
「△△医院で何があったのですか!教えて下さい。えらい目にあいました!」
「まあ。聞くなや。人には事情ってものがあるべ。じゃあな。」
一方的に電話を切る先輩。
帰り道の遠いこと。
帰り道の辛いこと。
その日はいくら飲んでも酔わなかったな。
なんだか切ない夜だったな。
理由? 22年たった今でも知らないよ。
教えてくれないんだから。
とほほ。
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