ぼくのはじまり 25
~ 手ぶらかよ ~
製薬会社の営業(昔はプロパー/今はMRと呼ばれる)は自社の薬の有効性や安全性を製品パンフレット(製品情報概要)や文献、データを手に医師へ紹介(説明)して適正使用を促進することが仕事である。
よっていかに会社から提供される資材を活用して医師へ上手に伝達するかがその営業マンの資質やスキルにかかってくるわけである。
ホントはね。
私は昔ながらのすっとこどっこい営業マンで、とても "学術肌" とは、ほど遠い "オチャラケ営業"。
当時は国内の中堅製薬会社に勤務していたのですが、時々、羨ましいと思う大手製薬会社の「カッコイイ」製薬会社営業マンも存在していた。
細身のスーツで体を包み、明るい色のネクタイがまぶしい。
黒い営業鞄はアタッシュケース。
さっそうと病院の廊下を歩いている。
病院によってはスリッパに履き替えてから院内に入るところもあったが、そんな営業マンは自分専用のスリッパを携帯し玄関でちょっと高級そうな「自分のスリッパ」に履き替えてから入ってくる。
廊下や医局で医師に自社製品のディテールをする姿も麗しい。
左手に文献、右手に銀色のボールペンを持ち、データを刺し示しながら面談している。
「彼はね、英語の文献を原本のまま読めるんだって」
「へえー、すごいねェ」
彼=学術的な製品(疾患領域)の説明 という公式がなりたち、とても信頼されていた。
私=??????という公式かな。
だんだん慣れてくると訪問するたび「薬」の話ばかりでなくなる。
私のような生半可(不勉強)な性分では逆に提供する「薬」のテーマが無くなってくる。結局、医師に面談はするものの「世間話」で終わることも多くなる。
時には営業鞄すら持つことなく手ぶらでぶらりと病院に入り、ふら~っと医局へ行き、そこに居る医師と談笑(内容はくだらないこと)し、離れ際に「あっ、先生、うちの〇〇〇の処方、宜しくお願いしますね。頼みますよ。」なんてことを言う。
これで「処方促進活動終了!」って会社に報告したりしていた。
(許される時代だったの!)
ある日、ある病院の薬局長を訪問した時に(手ぶらだったのさ!)、珍しく製品の難しい話になってしまった。
「柳田さん、その薬剤の血中濃度AUCはどうなるの?資料ある?」
「(汗)え~っと、いまその資料は持ち合わせていないのですが...」
「製品情報概要(基本パンフレット)に書いてあるでしょ。見せて。」
「(汗)え~っと、それが無いんです。」
「基本パンフレットも無いの?どうして無いの?」
「鞄が無いの」
「どうしたの?」
「営業車に置いてきたの」
「どうして置いてきたの?」
「う~んと、今日はいいかなって思って...」
「バカ者!手ぶらかよ。それでもお前は営業か?何しに病院に来ているんだ!」
「気を付けます...(しょぼん)」
でも薬局長がひとこと
「手ぶらで病院に来れるようになったら、お前も一端のうちの病院担当の営業になったもんだな。病院に入り込んでいるってことだからな。ここを担当して何年になる?」
「3年ですかね」
「先生たちもお前の事は可愛がってくれてるようだしな。頑張ってるな。」
怒られながら、
褒められながら ... 私は年を重ねていた。
そんな20年前。
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