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ぼくのはじまり 15

僕のはじまり 15

~「いまの誰だ?」~

20年前のこと。
道東の都市を担当していた私はホテルをねぐらにしながら仕事に勤しんでいた。
私が担当していたある病院は当然、医師は輪番に「当直」していた。
総合医局には「今月の当直一覧表」が貼り出され、MR(製薬会社営業マン)は
それを確認して「今日は○○先生が当直だから夜遅くでも院内で会えるな」とか
「今朝は△△先生は当直明けだから疲れているだろう」と情報源のひとつにしていた。

私は大変、仲がよかった消化器科部長先生が当直の日は夜遅くに病院の医局を
訪ねて深夜のおしゃべりなどをして時間を潰した。

先生も急患が来ていつ緊急に呼ばれるか解らない。
実際、一晩に何度も呼ばれるのであった。(医師の当直はホントに大変だ)
医師用の仮眠室で横になるも、睡眠など充分に取れる状態ではない。
私たちとおしゃべりしているくらいが気晴らしになったりするらしい。
そこそこ夜が更けるころ我々は遠慮してそれぞれ病院をあとにしていく。

あるとき、いつものように深夜、医局の応接で談笑をしていた。
何人かが帰り、私もそろそろ帰ろうとした時、何を思ったか医師が
「なんなら病院に泊まっていったらどうだ?」と声をかけてきた。

「いやあ、先生、ちゃんとホテルも取ってありますから。」
「医局の酒を飲んでもいいぞ。 俺は飲めないけど。 話をしよう。」

そんなことで私は一人、医局に残り高級であろう日本酒をまるで自分の物のように
ぐびぐび飲みながら医師とおしゃべりしていた。

そろそろ眠くなった頃、医師は医局の隅を指差し「あそこに寝ろよ」。
そこは畳3帖ほどのスペースで囲碁や将棋が出来る小部屋。
アコーディオンカーテンで仕切れるようになっており、布団も一組置いてあった。
「でも、あそこに泊まっていく薬屋はいないでしょ?」
「何言ってるんだ、みんな泊まっていくんだよ。遠慮するな。」
「へえ~、そうなんですか。じゃあ、ちょっと横にならせてもらいます。」

旨い日本酒でふらふらとした私はスーツを脱いで布団を整え眠りについた。
深い深い眠りだったと思う。
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朝になり、軽く二日酔いで朦朧としている私はぼんやりと「ここはどこだっけ?」、
「何だか向こう側がうるさいなあ」と眠い目をこすりながらと立ち上がり
何の気なしに、アコーディオンカーテンを勢いよく開けたのだった。

医局のソファには白衣に着替え、間もなくはじまる外来に向けてコーヒーを
飲んだりしてリラックスしている医師たちが10名ほど。

私はパンツ一枚で太った腹を突き出しながら畳スペースで仁王立ち。
全員の視線を集めて固まる私。
手に持ったコーヒーカップを落としそうになる医師。

あわててカーテンを閉めなおした。 勿論、気を失いそうになりながら。


「だれだ?」 「なんだ?」 「泥棒か?」 「見たことあるぞ!」

「ああああ、正太郎だあああ。」

「どわっはっは」 医局内に湧き上がる笑い声。


私は真っ赤な顔でスーツに着替え、ボサボサ頭のまま医師の前に出た。
頭をカキカキ。 下を向きながら...。

皆さん、優しい声をかけて下さり、「おお、コーヒーを飲みなさい。」
「ホントにすみません...」

昨日の当直の医師がサンドイッチを手に医局へ入ってきた。
「おお。起きたか。サンドイッチを買ってきてあげたぞ。」
部長先生はわざわざ、売店まで行ってサンドイッチを買ってきてくれたようだ。

サンドイッチとコーヒーをもらいながら

「部長先生が、泊まっていいっておっしゃるものですから。
お言葉に甘えてしまいました。
よくここに薬屋が泊まられると聞いたものですから。」

先生達は顔を見合わせ大声で笑い始めた。

「はっはっは。 そんな奴、居ないよ。 お前が初めてさ。」

  「部長先生!」


(2008年03月06日)

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