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ぼくのはじまり ⑨

僕のはじまり -9

「先生、彼女、送ります?」


20年前。
やっぱり、北海道の道東地区のこと。

釧路湿原が見える国道沿いの「山小屋風(ログハウス)」の
喫茶・レストラン。
周りには本当に何も無く、ポツリとあるレストラン。
釧路の町からも何十キロも離れている。


僕は町から町への移動の途中で、その店で遅めの昼食を
とっていた。
広い店の中に、他に客は綺麗な女性がひとり。

「ははん。駐車場にあった高そうな赤いスポーツカーは
彼女の車か。ひとりでドライブか? かっこいいなあ。」 と思っていた。

僕は確かお店自慢の「ハンバーグランチ」か何かを食べたはず。

しばらくして、さっきの女性は珈琲代を払い店を出て行った。
しかしほんの2分後、その女性は店に戻ってきた。

「電話を貸して下さい」
まだ、携帯なんて無い時代だからね。公衆電話だからね。

彼女は電話をかけた。
「すみません、○○総合病院ですか? 精神科の○○先生、お願いします。」

あれ?○○先生を呼び出したぞ。 まだ若い○○総合病院の精神科医師だ。
どうしたんだ?
店のカウンターにある公衆電話だから聞きたく無くても聞こえてしまう。

「ああ、○○?ごめんなさい。車、鍵を付けたままドアロックしちゃった。
お願い、迎えに来て。診察が終わったら来てくれる? それまで待ってるから。」

「おおおおお、○○先生の彼女だったのか!!彼女が居るとは知らなかった。
へええ、○○先生の彼女ねえ。それにしてもまだ2時だ。
先生が診察を終えて釧路からここに来る頃は7時を過ぎるだろうさ。」

「うん、わかった。 待ってる。 ごめんね。」

バスも電車も何も無いからなあ。
じゃあ、仕方がないな。

「すみません、○○先生の知り合いの者です。電話、替わってもらって
いいですか?

彼女から電話を受け取り、「○○先生ですか?○○製薬の柳田です。」
電話の向こうから「おおおおおおおおおおお!!柳田サンだああ!」

「偶然、近くで食事をしていたんです。話が聞えてしまいました。
僕、これから釧路に戻るんです。良ければ、先生、彼女 送りますか?」

「あああああああ、有難いですう。 車は今度の週末にでも取りに行くから、
宜しくお願い致します。 あああ、居てくれて良かった~」

お店には、週末に合鍵を持って車を取りに来ることを彼女が告げて、
僕の(かなり)汚い営業車に彼女を乗せ、釧路へ戻った。
詮索も野暮なので会話はあまり弾まないようにしながら。世間話で。

それはそれは感謝されましたよ。
釧路に着いて、彼女はマンションの前で降ろし、僕はそのまま○○病院へ。
精神科の医局へ行き○○先生に報告。
「柳田サン、ホントに申し訳なかったです。有難う御座います。
何かで御礼はしますので。
ところで、もうひとつお願いなのですが…。
僕に彼女が居る事は誰にも言わないでいてくれませんか。
秘密なんです。」

「ほっ、ほっ、ほ~!」ニヤリの柳田。
「大丈夫っすよ。誰にも言いませんから。」


その後、○○総合病院の精神科で当社の採用されている医薬品が
爆発的に伸びたことは言うまでもない。


会社から伸び率の理由を聞かれるが、言えるはずもなく。
「謎の前年伸び率260%」と、言われたものさ。

         へへん。


(2008年01月24日)

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