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僕のはじまり ⑤

僕のはじまり ⑤ -「100円やるから」

冬の朝にたまに思い出すことがある。
私がまだ20代前半の頃、道東地区を担当していた時。
まだ、“現地駐在”をしている製薬会社営業マンは殆んど居なかった。
ほとんどの方は、札幌に住んでいて、月曜日に地方へ移動し金曜日の
夜に札幌へ戻る生活 ---。

 当然、その間はホテル暮らし

当時は釧路市内のあちこちのビジネスホテルには製薬会社の社員が
常駐していたものだ。

 “○○ホテルは○○製薬と△△製薬と□□薬品が使っている”
 “××ビジネスホテルには--薬品と▽▽製薬が泊まっている”

などと色分けされていたのだなあ~。
私もとある安ビジネスホテルを釧路に来たときには利用していた。
そこにはやはり数社の製薬会社社員が利用していた。
私はまだ若僧で、会社は違うものの先輩達には服従していた(笑)。

そのホテルの駐車場は道路を挟んだ向かいの広場にあった。
私たちの朝は何となくみんな、食堂(レストラン)に集まり、朝ごはんを食べたり、
コーヒーを飲んだり二日酔いの人は牛乳を飲んだりしながら朝の出発までを
過ごしていた。

寒い寒い冬の朝。
外はキンと冷え込んで白いもやがあたりに漂う。
車の窓は凍り、結晶が浮かび上がる・・・そんな日が何日も続く。

「おい、正太郎、駐車場に行って車の雪を降ろして、エンジンをかけてきてくれないか」
「ひえ~!なんちゅうことを言いなさる!」
「寒いべや! 冷たいべや! 50円やるから暖気運転にしてきてくれ」
「頼むからよお。寒いの嫌いでよオ。」
「それは、私とて同じこと」

「お、それなら俺の車も頼むわ。」
「おれのもやってきてくれえ。」

 食堂のテーブルの上には数枚の50円玉。

お金ではなく、言われたらやらなきゃって感じ。
寒い日の朝の行事。
辛い朝。

 今じゃあ、さすがにこんな風習は残っていないよなあ。
 釧路の安ホテルの薬屋さんたちのオリジナル風習(笑)。


           そうか、今は「オートスターター」があるか。
           20年前。
           北海道は、今より寒かった。


(2007年11月23日)

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