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褒められもせず苦にもされず

第52回 火中の栗

半年ほど前、知人の紹介でご相談にいらしたおじいさん。公正証書遺言作成を希望しています。
おじいさんには4人のお子さんがいて、既に皆独立しています。
数年前に伴侶にも先立たれ、現在は古い一軒家に1人住まい。
さて、この家を巡って、すでに兄弟の争いが起こっている様子。おじいさんの一番の心配のタネです。

「自分でもね、遺言の書き方を調べて書いてみたんですよ。見てもらえますかね?汚い字で恥ずかしいですけど...」
おじいさんがポケットからとりだした封筒。一枚の便箋には家を兄弟の誰に相続させるかが書かれています。日付も署名も押印もあり、自筆遺言として有効です。
「おじいさん、これでも遺言として通用しますけど?公正証書にしたいのはどうしてですか?」
「お恥ずかしい話しですけど、家を誰がもらうのか、子供達で喧嘩してるみたいなんですわ。でも、カミサンが死んでからずっと、ワタシのことを一番気に掛けてくれた○○に、家を残してやりたいんですよ。
そのことをちゃんとした書類にしておかなきゃなって思うんですわ。ほら、ボケちゃったら遺言のこともわかんなくなるかもしれないし。わはは...」

財産を巡っての兄弟喧嘩は、決して珍しいことではありません。
おじいさんの気持ちを尊重した遺言を作成し公正証書として残す準備を始めました。
ところがその準備を進めている段階で、遺言作成に感づいたらしい兄弟が邪魔をしているらしいのです。
そこでおじいさんは、遺言執行者に僕を指定してくれました。

将来おじいさんが他界されたとき、遺言執行者はその権限をもって、遺言の内容に則って手続きをします。しかし、仲の悪い兄弟たちからは、第三者の遺言執行者は目の上のたんこぶにすぎません。
はたしてすんなりと遺言通りに執行できるかどうか。火中の栗を拾う作業となるでしょう。

例え何かの反証があったとしても、法に則って手続きを進めるだけですし、遺言執行者を受任した段階から反証を予想した準備もしています。
しかし、おじいさんが本当に望んでいることは、「兄弟仲良く」ということでしょう。
そのことを将来上手く伝えられるかどうか...。
おじいさんの本心を思うと、複雑な気持ちになるのです。


(2008年08月28日)

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