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第8回 一級建築士 山本亜耕(やまもとあこう)さん

5.「防寒技術」から「環境技術」への転換が大切です

資料をいただいた「星置の家」(ほしおきのいえ)はとてもかっこいい住宅ですが、これは暖房費などのエネルギーのランニングコストもかなりお得な設計なのですよね?


はい。
なんとか冬場のエネルギー消費を減らすことをテーマに取り組んだものです。1階の床暖と温度調整用の電気ヒーターのみで、3階全ての暖房をまかないます。晴天だと暖房はいらなくなります。ガラス張りの2重バルコニーの内側は冬場でも晴天時+27℃にもなります。内戸を開けると太陽で温められた空気がふわっと室内に入ってきて気持のいいものです。直近のデーターでは照明、炊事、暖房、給湯、全て合わせても1ヶ月3万円少々くらいですから悪くないと思います。今年なんか暖房の灯油代だけでこのくらいいった人多いんじゃないでしょうか?(笑い)
先ほど申し上げたように北海道では様々な防寒技術を研究してきました。しかしこうした取り組みも見方によれば寒い特定の地域の都合を研究しているに過ぎません。日本の大部分はそこまで寒くありませんから。(笑)
でも最近はそんな寒地生れの断熱や換気、太陽光の利用といったノウハウが環境技術に簡単に応用できることも分かってきました。防寒技術のうちは単なるローカルノウハウでも環境技術となればニーズは全国区です


北海道には、そのような技術が蓄積されている、ということですか


はい、昔から伝統的に蓄積されてきました


(以下、パソコンの画面を見ながら)

これは日本郵船の小樽支店の建物です。
1906年に完成した建物ですから今から百年以上も前のものです。
設計者は佐立七次郎という日本で最初の建築家の一人です。
今あらためてこの建物を見ると驚くべきところが随所にあります


例えばこの窓枠の、緑のビロード。ビロードがなんでこんなところに付いているのかというと、窓を閉めた時の「気密パッキン」なんです。外気が窓の隙間から入るとすごく寒いばかりでなく、結露や湿気で建物の寿命も短くなりますよね。
もっと凄いのは、この窓の、外の景色との間に白っぽい隙間があるのがわかりますか?


これ、当時のペアガラスなんです。百年前にすごい知恵だと思いませんか。
ガラスを2重にしたことでこの建物は百年もったと思います。結露が少ないから


あー。なるほど


もうひとつ、建物をお見せします。僕がとっても好きな建物なのですが。
小樽市市民会館です。これはまだ築45年です


ご覧のように、当時のモダンな感覚が伝わってきます。今見てもかっこいい。
銀色の窓枠が見えますが、本来はこっちがオリジナルの写真です。
鉄の枠にパテを入れて、ガラスは単ガラスでした。工業化が進み強靭な鉄でシャープな窓が量産できるようになったので設計者はきっと勇んで採用したのでしょう。しかしこれがどうなったかというと、あっけなく全部錆びて、現在ではアルミサッシに替っています。銀色に見えるのはそのせいです


なるほど、そうなんですね~


こちらの写真は1877年(明治10年)に建てられてた、北大のモデルバーン(畜舎)です。(当時は札幌農学校)
今でも北大構内にある建物です


明治10年というと。日本人がちょんまげを切って10年目くらいですね。近代農業の付帯技術として、建築が入ってきました。それも日本で一番早く、近代的な建築が入って来たんですよ。
よく、「北海道は歴史がない...」とか「奈良や京都に比べると負ける」とか言いますが、それは和風建築の歴史であって、近代建築に関しては、北海道は一番早いくらいです。
明治元年から10年後にはもうこんな近代建築が建っていたんですから。
130年前なのに、窓にはガラスが入っていて屋根は板金で葺いてある。つまり、材料は基本的に今とかわらないんです。もちろん耐久性や性能は当時より良くなっていますけどね


はい


ですから昔からあるそういう技術を洗練し発展させながら、地域色豊かでモダンな建物を創りたいな~って思ってるんです。それを僕の個性にしようと。
先ほど紹介した星置の家なども、カタチを見ると北海道っぽいでしょ。バターやチーズの箱に書いてあるような(笑)


ああ、そうですね


でも、よく見ると、壁面が全部ガラスとか、極力モダンなデザインでまとめました。
シルエットだけ見ると、北海道を連想させる記号性があって、ディティール(細部)に寄って見ると最新の省エネとか環境技術などにきちんと答えていると。
そういうものの両立が、今の時代には必要なんじゃないかなと。そう思ってつくったのが、2005年の星置の家です


はい


次の「ニセコの家」は退職後に誰もが向き合う第二の人生に取り組んだ設計です。
2007年に完成しました。
この家のクライアント(施主)は、60歳少し前で、ずっと東京都庁にお勤めでした。18歳まで、となりまちの倶知安で暮らしていらしたんですね。
そんなこともあって、退職される数年前から、「北海道に帰りたくて帰りたくて仕方がなかった」と。
で、たまたま僕とご縁がありまして、「実は、退職したら北海道に帰りたいんだ」という先方のご意向を伺って、土地も一緒に探して2年越しでできたのがニセコの家です。
(クライアントは)もと北海道人ですけど、東京暮らしが長かったわけですから、北海道に帰ってきて、奥様と二人でこちらで暮らすということはどういうことなのか、ということをもう一度確認する必要がありました。
主にメールを通して打ち合わせをしていました。まず建築の条件ですとか、希望などを伺いまして


インターネットで遠距離で打ち合わせですか!


はい。そういうことも可能なんです。
ニセコは豪雪地帯ですから、やはり雪の対策などで随分話し合いましたね。例えば、屋根には雪を載せられないので落雪帯が必要です。でも、「書斎から羊蹄山が見たい」から雪の落ちる方向に窓もほしいとか、そういう先方の希望もたくさんありましたから。
しかし一番の問題はニセコという地域コミュニティに後から参加するわけですから、地域の人たちと自然に交流しやすい間取りを作りましょうと。で、考えたのが、風除室を作らないで、玄関ドアを開けたらいきなり書斎のような、いわば近所の人の居間みたいなスペースを玄関にしたわけです。これでご近所さんや友達が、気軽に家に来ることができます。ストーブなんか置いてその場所は土足で計画しました。日本人は靴を脱ぐとどうしても構えちゃうから。(笑)


1階はパブリックな感じでご近所さんOK、反対に2階はプライベート中心のスペース。親しい友人などは靴を脱いで2階の居間に上がってもらう。
つまり、子育て中心の家ではなくて夫婦二人でどうやって周囲の人たちと付き合って行こうかと、そういう家の設計をしています。
2階の間取りも、朝起きて、顔を洗うことから始まる一日の生活の行動順に、部屋の配列をしています。
ここは50坪の大きな家ですが、中心にある吹き抜けを介して、1階にあるストーブ一台で、全館を暖房する仕組み。エネルギーにお金をかけないようにしています。
出力は1時間あたり4000Kカロリーのペレットストーブ一台で、家中を全部まかないます。ちなみに、標準的な家庭用の灯油ストーブは1時間当たり12000Kカロリーくらい。ですから、3分の1くらいのエネルギー消費を目指しました


ペレットストーブなんですね


はい。1階の吹き抜けの近くに置いたペレットストーブ1台で充分に暖まります。ペレットは地方でも木屑から簡単に量産できますし、CO2を吸収した植物を燃やすので地球にも優しいです。星置の家以上にしっかり断熱したのでこの家も昼間は暖房がいりません。
結果、年金暮らしになってもお財布にも優しいの。(笑)でもこれからは大事だと思います。僕の建築の大切な考え方として、「知恵を駆使して、無駄を抑える」。『両立の美』って僕は最近言っているのですが、(両極にある)二つの難しいことを同時に解決する工夫。それが建築の設計なんです


(第6回につづく)
(2008年03月27日)

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