そして1シーズン終わると、合宿だけに?卒業試験がある。
1000m超の山に、海抜0メートルから頂上を目指すのである。
スノーシューという西洋カンジキをはいて、背中にボードを背負い、両手に折り畳みのポール(杖)を持ち、おにぎりとチーズと水、スポーツドリンク、チョコレート(遭難用で、帰りに持って帰るためのもの)を携帯する。さらに、雪崩れて友達が雪の下敷きになった時のために、スコップと長い棒(目処をつけて埋まっていると思われる所に突き刺して人を探す)、とお互いの位置を確認する発信受信機(ビーコンと呼ばれる)。
このような装備で出発する。
遠足ではあるが、山の天気は変わりやすいので、着るものは少し多めに。
しかしがんばって登って汗をかくと、標高が上がるにつれて下がる気温により汗が冷えて、風邪をひいてしまう。これでホワイトアウトでもくらって、ビバークするはめになると風邪どころか致命的なので、とにかく汗は禁物。零下の気温でも、裸に近い格好で歩くこともある。冷気に体をさらして、体が熱くならないように、汗をかかないようにするのである。決して無理は禁物なのである。(人生のお勉強)。
露天荘に出稽古に来るのは年間数十人。
だが、この卒業試験を受けるのは決って3人。
露天荘の大家さんEさんと、海山の大先輩Hさん。そしてひ弱な僕。
毎年他の人はこの日だけ忙しいらしい。
朝7時出発して大体4時まで(9時間)、日が暮れて万が一道に迷っても大丈夫な時間を帰り時間に設定する。
しかしいつも6~7合目でタイムオーバーか自然の力に前にひれ伏す事になる。時に風、時に吹雪、時に霧、そしてホワイトアウト。
ホワイトアウトはやっかいである。空が見えると地と天の境がわかるが、空いっぱいに雲がかかって真っ白い霧状態になると地面と空の境が分からなくなる。真っ暗の逆の真っ明だと思っていただければ良い。ただ真っ暗と違うのは、明るさがあるため視覚が働いてしまい、平衡感覚がやられる点である。前後左右上下が分からなくなり、この状態で滑るとすぐに転んでしまう。
しかも前に転んだと思うと横に転んでるし、後ろに転んだかと思うと斜めに転んでいる。
こんな状態ではプロの登山家ならともかく、素人は動けない。
持っているスコップで雪をブロック型に切り取り、それを積み上げて風よけの即席壁を作り、みんなでくっついて熱を放射しないようにして晴れるのを待つのである。
やっかいといえば滑落も恐い。
この山は体標高400メートルくらいから木がなくなり、吹きさらしの状態となる。しかも上にいけば行くほど気温が下がるから、今まで地面が圧雪で覆われていたのが、白い氷に変わってくる。
氷の状態だと、かえって登りやすい。履いているスノーシューは底に滑り止めの歯が付いているので、氷をかんでくれるからだ。
しかし風のいたずらで、所々10センチ位氷の上に雪がたまっている所がある。そこを踏むと歯が氷まで届かず、滑って転ぶ事になる。
これが運悪く急な斜面で起こると、滑落だ。滑り落ちている時は、どこで止まるのかわからず、肛門が切れそうなくらい体中に力が入り、何とか足をストッパーにして止める。
それを他のメンバーが見て「もう無理だな、やめよう」となる。下山してメンバーに「30メートル位落ちましたよねー」と言うと「10メートル位だよ」と言われた。自分では恐怖で30メートル位に感じていたのだ。
しかし自衛隊は、4時間でここの頂上まで登るらしい。
僕らは所詮一般人だと思い知らされる。
何時間登っても、滑ると10分で終わり。しかし登ってしまう。雪山の魔力である。
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