MEちゃんはマラソンと、晩酌もしくは昼酒と、一度出ると1ヶ月位戻らない海外旅行をこよなく愛するごく普通の赤鼻主婦である。
僕が「その鼻は酒焼けだよ」と言っても絶対認めない、普通の主婦である。
ハワイのホノルルマラソンに出場するため2週間前から現地に入り、レース後現地で休養1週間、当然のごとく毎日酒てな感じの普通の主婦である。
(去年MEちゃんの別荘に泊まりに行ったとき、僕はMEちゃんの友達と一緒に晩酌を楽しんでいた。次の日の朝起きて、ちょっと二日酔いで具合悪いなーと思いながら居間でまったりしていると、MEちゃんを含めた3人が起きてきて、おはよーなんて言いながら、水を注ぐように、ごくナチュラルかつ無駄の無い動きで、お互いのグラスに焼酎を注ぎ出したのだ。そして、朝から「乾っ―杯―っ!」だって。
僕はすっかり二日酔いを治してもらった。朝8時前の出来事であった。)
そんな普通の主婦が、めったに無いことに、とってきたキノコを天婦羅にしてくれるというのだ。
赤い鼻を益々赤くするほど魔法の水を飲んで台所に立っていたMEちゃん。
山荘の持ち主、Mさんに、「天婦羅粉はどこ?」「小麦粉でいいよ~」「ボールはどこ?」「そこら辺の鍋使って~」「飲料水はどれ?」「ポリタンクの中だよ~」(雪解けの時期だったので、山荘にひいた湧き水に細かい泥が混じっており、あらかじめろ過した水を飲料水としてポリタンクにためてあったのだ)てな感じで聞きながら、準備を順調に続けていた。
この時、梅ちゃんは早くも第一のちょっとした異変に気付いていた。囲炉裏端からふと振り返ると、天婦羅の衣を用意しているMEちゃんが、なぜか台所の床にしゃがみこんでいる。でもその時はさしたる異変とも思わず、お箸でも転がしたのかな?なんて梅ちゃんは思っていた。
しばらくすると、天婦羅の衣をボールに入れてMEちゃんが登場、みんなで囲炉裏を囲んで炭火で天婦羅。MEちゃん・NA女史・梅ちゃんの女性陣が、仲良く頭を並べて天婦羅の面倒を見ている。
3人は、椎茸のほかにもイタドリ・ウドなど、次々に揚げていった。
MEちゃんは、「あ、触らないほうがいいよ。動かすと衣が脱げちゃうから」なんて先輩らしく梅ちゃんに言っている。梅ちゃんは、「ん...?ウン...」なんて首をかしげながらお返事。後で聞くとこの時、梅ちゃんは第二のちょっとした異変に気づいていたらしい。強火でカラッと揚げているのに、揚げるそばからするする衣が脱げる気がする...?と思っていたのだ。
出来上がった天婦羅を一同喜々としていただいた。だが次第にその顔つきは微妙になり、やがて首をかしげ、ついにとある疑問が発せられた。
「...何かガソリン臭くない?」
「そうだねー...なんか匂うねー」
「どっかに灯油がこぼれてるのかな?」
と言いながら、匂いの元を追っかけた。すると突然、一番囲天婦羅鍋に近かったNA女史が、衣が入っている鍋をつかみ、鼻に近づけた。
「これ...もしかしてこれじゃない?」
一同唖然とし、鍋を廻して匂いを嗅いだ。間違いなくガソリン臭。よく見ると、天婦羅の衣は鍋の中で怪しく分離している。
MEちゃんは、酔った勢いでテーブルの上に置いてある飲料水の白いポリタンクを無視し、テーブルの下にあった青い灯油のポリタンクから、小麦粉の鍋にたっぷりと注ぎ込んだのである。
これを知ったMEちゃんはショックのあまり一同に謝り謝り、(おおらかなMさんは「大した違いじゃねーよ」と更に灯油天婦羅を口にして見せたりしたが)挙句の果てに大泣きして奥の部屋に走り込み、篭城してしまった。
みんなで慰めて扉を開けさせるのにしばらくかかった。
今となっては感慨深い初夏の思い出の一こまである。
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