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白亜のレストラン建設大計画

ヤシャール プロフィール

40歳
会社役員
何のとりえも無いが、友達と、趣味だけは多い、スノーボードと遊びが好きな男です。
ウチにいるのが嫌い。週末は山に、海に。アウトドアのためなら寝食を惜しまず。
過去に海外放浪歴あり。トルコ料理に魅せられ、レストランを出すことが夢。
今までの人生が少し変わっていたということを友人に指摘され、そうかな~?と文章に
まとめてみることにしました。

熱反射とストーブの関係を業者に訊いてみた

暖房方法と位置、煙突の形式、換気方法、暖気の循環。考えることはまだまだ沢山ある。
断熱も大切だが、熱反射というのも大切らしい。そこで、と「雪国科学株式会社」に相談した。
以下やりとりのメールである。

●赤外線反射素材の問合せ
現在山の中にコンクリート製の平屋・長方形の箱型のものを建設計画中です。暖房は薪ストーブを予定しております。そこで、御社の赤外線反射素材に興味をもちました。
床面積は50~70坪程度、壁は360センチ程度の本当の箱です。
予算の関係上、まず金額を知った上で、機能性の検討をしてみたいと思っております。よろしくお願いいたします。

■早速ですが、回答させて頂きます
『AIRIN』の価格は、40,700円(税抜き)になります。サイズは、1.2M×38M(約46㎡)です。
薪ストーブをお使いになると言う事で赤外線の反射による断熱は有効ですが、建物の内装をどうされるかで、『AIRIN』の施工が難しいケースがあります。
コンクリートむき出しの場合は、『RAYWALL』という商品をおススメいたします。
もし、内装の仕様が分かれば、一番いい方法をご提案させて頂きます。
カタログも御用意しておりますので、必要であればお申し付け下さい。
それでは、宜しくお願い申し上げます。
雪国科学株式会社 *****

●早速ご回答ありがとうございます
コンクリートの内側にスタイロ断熱を貼り付け、その上からペンキを塗る計画でした。断熱材の上に赤外線反射素材を貼るのかなと何となく思っていました(コンクリートにそのまま貼って断熱するという発想がありませんでした)ですので上から塗装できるかは知りたいところです。赤外線反射素材の色、強度(壁面に貼った場合、衝突等による傷みが心配)が、分かりませんのでそこも知りたいところです。
箱のサイズは7.2M(奥)×30M(長さ)×3.6M(高さ)を予定して計画中ですが、窓、ドア等が決定しておりません。
このような中で良い提案はありますか?また北海道の極寒地(-20度以上にはなると思います)でどのような性能を発揮するのでしょうか?

■説明が不十分で申し訳ございません。
まず【赤外線反射シート SR-PL】この商品は、アルミのシート状のものです。
アルミなので、銀色でピカピカしております。ですので、このまま内装材としては
使用できません。
かといって、表面に何か塗料を塗ってしまうと反射率が落ちてしまいます。
主に壁内部に施工します。
【RAYWALL】これはセラミックを混ぜてある壁仕上げ材です。コテなどで仕上げます。
内装材としてご使用いただけます。
で、赤外線を反射させる材料の場合、注意点がございます。
アルミは熱つまり赤外線を反射させます。
赤外線は空間がなければ発生しません。接触していれば「伝導熱」になります。
冬場は室内の暖房の熱が温度の低い外部に逃げようとします。
この場合は、内壁→空間→アルミ→柱・断熱材...となります。
RC住宅の場合、壁をむき出しにする場合と内側のコンクリート部分からふかして
壁を作る場合もあります。
もし壁の仕様の分かる図面があるようでしたら、見せていただければ、と思います。
今回の話では、壁を作る場合は、AIRINを使用し、コンクリむき出しの場合はRAYWALLを 塗るという方法が一番良いと思われます。
効果としましては、室内からの熱損失を軽減し、省エネかつ暖かい家になると思います。また、窓部分の熱損失も大きな割合を占めますので、カーテンより金属製のブラインドの使用をお薦めいたします。カーテンは布なので赤外線が筒抜けです。しかし金属製のブラインドは赤外線を反射し熱損失を抑えます。
まずはカタログと資料をお送り致しますので、ご検討下さい。カットサンプルも同封させて頂きます。来週初めにはそちらに届くと思われます。以上、宜しくお願い申し上げます。

という事でカタログが来るのを待つことにした。

ストーブの構造を考える

つぎは薪ストーブの構造会議に入った。

薪ストーブそのものの構造はいたって簡単で、鉄の箱の横に薪を入れる入れ口と、上に煙突用の穴があるだけである。
煙突用の穴に煙突をつないで、その出口を外に出せば終わり。
薪を入れて燃やすと熱が室内に残り、煙は外へという具合である。

しかし、この煙突の長さ、縦横比等の知識が無いと薪に空気が行かなくうまく燃えない可能性がある。
こんな事を全く知らない僕は、Oさんの話を真剣に聞いていた。
もし燃えが悪いといくら薪があっても室内は暖かくならない、イコール冬季休業に追い込まれるので真剣の度合いはいやでも増す。

まず大切なのは煙は上に行くので、縦の煙突だけというのが理想である。壁に煙突がくっついていて、その真下にストーブがある状態、これが一番燃焼がいい。
昔の風呂屋の煙突が高かったのはそういう理由らしい。
しかし薪ストーブはある程度壁から離れた所に置きたいものだ。
四方360度に熱を発するから、壁にくっつけて壁を暖める必要はないからである。
すると横に伸びる煙突が必要となる。横伸び煙突を縦伸び煙突とジョイントさせると、ストーブを壁から離して設置できる。サンタは入りづらくなるが...。
そして、薪ストーブには欠かせない煙突掃除も楽な方がよい。煙突は曲がり角と横式部分に汚れがたまりやすい。したがって、やはり直立が良いようだ。

次に問題となるのが、煙突の縦と横の長さの比率。
大体縦2:横1の比率より縦が長い方が良いらしい。
計画では天井の高さがが3.6mなので、屋根より上に1メートル長くしてもトータル4.6メートル。あまり上に伸ばしても5mの積雪で折れてしまう心配がある。長さは、長くしてもこれくらいだろう。
逆算すると、横伸びの長さは1.5メートル位でないと燃焼率が悪くなってしまうということになる。もっと壁から離したいところであるが、こんなものであろう。

あと保険的機能として、床下に空気孔を這わせて、外からストーブの真下あたりに外の空気を引っ張り込むという方法も考えている。
これは管構造で、吸気(外にある部分)は地面より5メートル位上にする。そうしないと雪で口が塞がれるからである。
ただこの構造には自信がなく、現在検討中である。

そのほかには何箇所設置するかという問題もある。何せ70坪を暖めるにはと思うと、2箇所では心細いので、3箇所煙突をつけようということになった。

熊の寝床は大丈夫か?

しかしOさんは言った。
少し入ったところに沢があって、そこには人が入ったという話を聞いたことがない。そこには間引く木がたくさんあるから、そこで切り出して、上にウインチをつけて引っぱり上げれば大丈夫、と。
人が入った話を聞かないって事は、それなりに理由があるんじゃないの?熊の寝床があるとかさ。

昔、道南に春の川釣りに行った時である。
川を歩いて上って釣りをしていると、ダムの放水が始まり、徐々に水嵩が増して、来た川を下れなくなった。
仕方なく崖を登って、ようやく歩けるような獣道のような小道を見つけて歩いていると、笹が丸く倒れている所に出くわした。熊の寝床である。獣道のような小道は、本当の獣道であった。

春、空腹で凶暴になった熊に出会い頭で遭っていたらと思うとゾッとする。
その時は生きた心地がしなかったし、パニックの一歩手前までなった。爆竹を5秒おきに鳴らしながら、妙なくらい大きな鼻歌でどこにいるか分からない熊を威嚇しながら何とか車に到着した。そんなトラウマが頭をよぎって猜疑心が顔を出した。

しかし、最終的には、薪暖房システムにしても最悪の事態が冬季平日休業という程度であると覚悟する事にした。
薪暖房システムの採用である。

えっ GOくんが逃げた?!

秋になった。Oさんがちょっと薪を拾いに行くの付き合ってくれないかーと言われ、山荘の森に三人で出かけた。

僕とOさんと、もう一人はOさんの介護人N女史。
(彼女はあるメーカー職員で、北海道全部の販売店の管理を一人で任されている...イコール、北海道でただ一人の職員である。職場は自宅で、使用するのは電話とパソコン。
そんな訳でどこでも仕事が出来るので、いつもOさんの山荘、海荘に来てはリゾート気分でチョコチョコと仕事をしていた。
ただ、今年はパソコン作業が据付のものからしか出来なくなり、ノートパソコン片手に海荘へーとはならなくなり、終業後JRで海荘へ通い、少し窮屈な生活になってしまっている。)

N女史と僕の二人に、どういう作業をするかという説明をOさんが始めた。
その辺に木が倒れているから、それを一箇所に集めてワイヤーロープでまとめてブルで引っぱり、森の入り口まで運べば、隣の農家がトラックで海荘まで運んでくれる、というのだ。
「木の切り倒し大変だったでしょー」
と言うと、Oさんは
「いいやー、GO君がやったからなー」
と言った。
「おいおいちょっと待て、GO君は切った木を薪にして無事小金をゲットして次なる人生のステップに行ったのではなかったのか?」と言うと、OさんとN女史は口を揃えて、
「いやいや、あいつ逃げたんだよ」「そう、逃げたさー。情けないよねー」「それ以来連絡つかないんだよなー」
だって。

GO君は木を切り倒して、そこでギブアップだったらしい。
そのとき、2人で悪戦苦闘していた姿が脳裏をよぎった。
切り倒す作業まで完了すれば、後は運んで短くカットして、縦割りにするという作業が待っている。きっとGO君は切り倒し後の先の作業を考えていやになったんだー。途中で投げ出すくらい辛かったんだなー。仕方ないかなー、でも、辛かったのはあの磨り減ったチェーンソーだったからなのになー、と思った。でも、GO君はロンドンで絵を描いていた超文科系のひ弱な男だったのである。
(その後、僕の行きつけの串揚げ屋さんのポストカードのデザインにGO君の描いた絵が使われていたのを見て、少しはホッとしたのである。)
この逃亡で、Oさんは木を拾って集めるだけで大量の薪をゲットというウマウマな事になったのである。

この事件があったので、Oさんの言う薪作戦に素直にうなずけなかったのである。
ただ、僕が体験した作業はそこらに倒れている木を5本位ずつ一箇所に並べて、ブルドーザーがきたらロープで束ねて引っぱってもらうだけだ。薪になるまでのほかの作業部分の労力は相変わらず謎のままである。
集積作業が終わり薪の総量を見たとき、これで何年分?と僕は聞いた。
「これでか?2ヶ月だな」
という答えが来た。
つまり、4tトラック軽く一杯位はある木材が一冬もたないのである。なおかつ、海荘は冬2階を使わないので、20坪弱のスペースである。単純に計算しても、計画している建造物ではその3~4倍の薪が必要となる。

まず雪解けまでに、木が冬眠から覚めて水を地面から吸い上げる前に木を切り倒す。(GO君がギブアップした作業)そうしないと木が水分を含んで燃えにくくなるらしい。雪の中の作業だが、頭から湯気が出るのは確実である。
それが済むと、それを集めてレストランの横に運ぶ、そしてそれを大体50cm位の長さに切りそろえる。
最後にテレビや絵本に出てくるシーン、木を立てて斧を振り下ろす薪割りである。
これを繰り返し、70坪を一冬・しかも来客用の温度設定でまかなうための薪の量はどれくらいか見当も付かなかった。ただとてつもなく大量に必要なのは明白である。
しかも、まずレストランから近いところから伐採を始めて、2,3年後はだんだん森の奥に入っていくことになる。
不安を通り越して、出来るかどうかに問題が移っている。
薪ストーブ仕様にしてから、薪を集めることは不可能となったら、暖房設備を石油に一新・大金バイバーイどころか、下手をしたら暖房費で足が出て冬季休業となる。

キコリを甘く見るなよ

じゃー薪暖房にするー、となるところだが、僕はOさんの話を鵜呑みにしなかった。
何故ならOさんの山荘の森に生えている白樺の木を薪にする作業を手伝った事があるからだ。
 
とある雪解けの時期に、例年のスノーモービル遊びをしていた。
そこにロンドン帰りのGO君という奴が来ていた。彼は帰国したばかりで金的に少し困っていたようだ。僕も帰国後しばらく無職の経験をしたことがあるが、結構不安なものである。
何せ、まだ外人の感覚で社会復帰しなければならないが、そう簡単にはいかない。仕事上の人間関係の構築は結構大変で、言いたい事を言わないと生きて行けない国が多いが、日本は数少ない逆の国だから。

そこにOさんがグッドタイミングで、この森の木を間引いて薪にして売ったら金になるぞー、最近薪の値段が上がってるからなーとGO君に言いだした。
当然、GO君としては力仕事だし、簡単に金になると考えて了解した。
次の週、僕がモービル遊びのため山荘に到着すると、
「GO君が森に入って木を切ってるよー」とOさんに言われた。
様子を見に、モービルにまたがった。
すると、GO君は友達を連れてきたようで、二人で力を合わせチェーンソーを手に白樺と格闘していた。
 
初めてのキコリ作業で手馴れないのは分かるが、それにしても1本に1時間もかかっているのはどうもおかしいと思っていると、チェーンソーの歯がすりへって無くなっていた。
そんな事に気がつかず1時間以上格闘している2人を見て、大丈夫かなーと思いながら僕はモービルドライブに出かけ、二人の現場を後にした。
二人は雪の森に残り、僕に手を振って「またねー」と言っていた。

「薪ストーブなら暖房費はかからないよ」

「大きいのは良いけど、暖房費がかさむと経営に影響するよ。
去年僕の家(2階建て4LDKの古い小さな一軒家)でも、月に2~3万円はかかっていた。ストーブは焚きっぱなしではないし、大きさも計画しているレストランより格段に小さいのに、それ位かかってたよ。」
今年はもっと灯油の値段が上がるし、最悪の場合、冬季間はレストランを平日休業にしようかな、等と話していた。
 
するとOさんは暖房代は掛からないよ、と言い出した。
さっきの今で何言ってるの、このオヤジはー?と思いつつ話を聞くと、薪暖房にしなさいと言われた。
都会の真ん中で生まれ、生まれた時から石油ストーブで育った僕にとって、薪という選択肢は全く無かった。しかも薪は海のキャンプとかで焚き火をするために買うものだと思っていたので、お金も掛からないという意味すら分からなかった。
 
Oさんは続けた。
「ここは何せ5町分もあるんだよ。
後ろ見なさい、森がいっぱいあるでしょう。そこから木を切り出すの。切るといっても端から全部切ったらダメだよ。間引くの。大きい木の間に生えている細い木を切るの。
細い木を切り出すのは2つの理由がある。1つは間引きのため、2つめは細いと薪の長さにカットするのが楽だから。うまくいけば薪割りはしなくても良い。
そうすると、残った大きな木はもっと大きくなるし、森に日が入るから森にもいいんだ。ここは誰も手入れしてないから、森が荒れているからなー」と言った。

このとき初めて気が付いたが、今までは自然というのは手付かずのものだと思っていたので、手を加えると森がダメになると思っていた。
しかしここの森は手を入れないとダメらしい。手をいれないと、木の足元に笹がはびこってしまって他のものが生えづらくなるようだ。
 
例えば、前出の落葉きのこ。
これは落葉の木から落ちてくる胞子から出来るが、胞子が飛んで湿った土に着床しないと生えないので、下に笹があると当然生えてこない。
近年人手不足で森が荒れているから落葉きのこが少ないのかなー、と思ったりした。
他にも間引きをする利点は色々あるらしく、木を間引いて薪にし、笹を切って森に手を入れると、森は生き返り、暖房代も掛からない。
一挙両得・二兎追うものは二兎を得るというのだ。

見たこともない巨大なめこ。でもしっかりとウマイ!

到着後、あらためてなめこの原木を見ると、それがちょうど良い木陰に木漏れ日を浴びるような絶妙な位置に体を横たえてある。

夕暮れの中さらに目を凝らしてみると、直径5cmはゆうにある見たこともない大きさのなめこがニョキニョキと生えている。生えているというと1本ずつという印象を与えてしまいそうだが、直径5センチの巨大ナメコが5~10本集まって一株になり、それがいたるところからボカンボカンと生えているのである。

きのこ摘みに持っていった容器は大き目のボール2つ。
僕とUMちゃんはギャホーギャホーと歓声とも奇声ともつかぬ声を上げつつ暗闇を跋扈し、これがものの2分でいっぱいになってしまった。
これを台所に持ち帰り、すぐに洗う。

洗うといっても大切なぬめりが取れないように(ぬめりがとれると味・香りが落ちるらしい)くっついた落ち葉や土を落とす程度に優しく指先でなで洗い、すぐ味噌汁にした。
こんなに歯ごたえのしっかりしたなめこは初めてだった。
味も濃くておいしい。
大きいほどおいしいということも初めて感じた。

他に、小さいものはしょう油で刺身。
さらにUMちゃんはナメコの炊き込みご飯を作るのだと宣言し、使用する鳥挽肉は自分で作ったほうが美味いのだと大いに張り切り、二挺拳銃のごとく二本の出刃を繰り出してミンチを作っていた。しかし炊き上げる際に予想をはるかに上回る量の水分がナメコから出たため、雑炊に片足突っ込んだようなナメコご飯が完成してしまい、UMちゃんはずいぶんしょげていた。

他に、ナメコの片手間に採ってきた椎茸のステーキ。ワインとウィスキーの間という絶妙なタイミングでUMちゃんが突き出してくれた訳だが、これがまた美味で、軸の部分は3人で静かな奪い合いとなった。
そんな食事をしながら、Oさんにレストランの暖房の相談を持ちかけた。

アワビの次はキノコの季節

あわび・シャコの次は、きのこの季節である。
北海道には落葉きのこというものがあり、落葉の木(からまつ)の落ち葉の中に生えるキノコあり、これを見ると本当に木の子供なんだなーと思う。

Oさんの庭ではこれも採れていた。しかし収穫量がそれほどでもなかったのか、僕の口に入った記憶が無い。
だが、Oさん邸のきのこ力はそれだけではなかった。
Oさんもここに椎茸畑を持っていたのである。
実はこの海荘、20年前はきのこの栽培工場であったらしい。確かに上に大きなコンクリート製の倉庫のような建物が2つ建っていた。去年まではそこを車の修理工場を運営するUさんに貸していたが、家賃滞納で追い出したらしい。

聞くとUさんは2年の長きにわたり滞納していたようだ。Oさんも太っ腹大家だなーと思っていたら、事情が少し違っていた。Uさんは経営不振で家賃滞納していた訳ではないらしい。
どうやらOさんの女友達Eちゃんにハマって少々お金をそちらに回していたようだ、とここまではよくある話?で驚きもしないのだが、Eちゃんに振られたUさんは何とEちゃんのお母さんにお金を回していたようだ。
というか、お母さんと付き合いだしたようなのだ。
これにはOさんも呆れて、母さんに払う金あったら家賃払えー、てな感じで裁判所に申請して追い出したのだ。Uさんはいい奴だったけど、変な奴だったなー。

話しは少しずれたが、その修理工場になる前がきのこの栽培工場だったらしい。
何のきのこを栽培していたかは定かではないが、元々きのこ栽培に合った土地のようだ。理由は水が豊富だから。
上に湧き水の水源があるのと、近くに沢があるので、水を引くのがいとも簡単にできるようだ。実際Oさんの庭には噴水つき手造り池があるのだが、この噴水は絶えず2M位水を噴き上げている。

そういう土地なので、ちょっと庭に椎茸とりってな感覚で、肉厚の椎茸をとってはシイタケどんぶりにしたり、などという事を日常的に行っていた。
あるときOさんから「なめこが出てきたから食べにおいでよ」と声(ナメコール)がかかった。
アワビ、シャコ、次はなめこかーーーー。椎茸があるのは知っていたがなめこも栽培していたとは知らなかった。
実はなめこの原木を椎茸採りの際に目にしていたのだが、きのこが出ていないとだだ横たわっている太い薪にしか見えないので気がつかなかったのだ。

アワビ、シャコ三昧

Oさん邸へのおいでコールの口実は、夏の間は主に「アワビ食べにおいでー」であった。Oさんは園芸趣味があるだけではなく、人並みはずれたさみしん坊さんなので、何かと口実を作っては海荘へ人を呼び、食事をしたり庭自慢をするのが大好きなのだ。
アワビは、水揚げされたものがそのままOさん邸へ届く。

最初のうちは刺身で楽しんだ。まるかじりと違い絶妙な厚さだなーと堪能していた。
が、回を重ねるとだんだん飽きてきて、炊き込みごはんに凝りだした。最初は身だけ入れて炊き込んでいたが、後半はウロと呼ばれる内蔵を入れて炊き込むともっと美味しいことに気づき、ウロも炊き込んだ。
しかしこれにもだんだん飽きて、最後はバターでステーキにしていた。
これもなかなかであったが、惰性で食べていた感が否めなかった。

アワビはもういいやー、となると次はシャコであった。
ご存知ない方もいるとは思うので説明するが、甲殻類で海老の仲間だと思う。
味は、歯ごたえのある海老とロブスターの間のような感じである。
殻は非常に固く、どこもかしこもトゲだらけだ。これの中身を食べようと最初に挑戦した人物は果敢である。僕の友達のダイバーはシャコに海中でにらめっこを挑み、ひたいを数発シャコパンチされ、流血したと言っていた。見た目にたがわず、結構パワーがある生き物なのである。当然身も筋力を反映してか、いい歯ごたえである。

そのシャコであるが、朝とれたものを海水で浜ゆでし、午後あたりに漁師が持ってくる。20リットルのゴミ袋半分はある。
ということは、10リットル分のシャコである。
食べ物は普通グラムかキロ計算であるが、シャコは僕の中ではリットル計算である。
ゴミ袋が届くと、こちらに連絡(シャコール)が入り、おいでよーとなる。
そんなこんなで、シャコもかなり食べた。

両サイドの脚(を含む殻の一部)をはさみでカットし、上下の甲殻を手ではがし、頭をとると一本のシャコの身が出来る。
これを一人が10とか20本とか食べてもまだ余る。
で、残りは持って帰れー、となるが、シャコの強烈な旨味と見た目にあてられて、帰りはもう見たくも無い。
しかも海老蟹類に共通の事だが時間がたつと臭くなるので、下手に持ち帰るとえらいことになるので、遠慮がちになる。

しかし、料理名人Uちゃんの手にかかるとこのお持ち帰りシャコが一変する。
僕が絶賛したシャコ料理は、シャコちらしである。
持ち帰ったシャコを刻み、酒と醤油で炒り煮にし、酢飯に針生姜と塩揉みきゅうりとを混ぜ合わせ、仕上げに白ゴマ。
これは本当に美味しかった(レストランが完成したら是非メニューに加えたいと力説した程である)、シャコの強烈な旨味と甘味が絶妙にほぐれ、まるっきり別の食べ物になっていたので、二日続きでもおいしくいただけた。

しかし、いつもUちゃんがいる訳でもなく、やはりカット・剥き&まるかじりとなることがほとんどであった。
食べ過ぎで夜、胃の中であのシャコが動き回る妄想に取り付かれたことがある。シャコにたたられるー。
またコレステロールが高そうだし、通風なんかもふと頭をよぎる。
珍味の類でおなかを一杯にするとろくな事が無いなー、とつくづく思っていた。

さて、暖房効率をどうするか…

ある日、「友達が東京から来て海辺のホテルでお茶飲んでるから来ないかー」とOさんから連絡が来たので、行ってみた。
そのホテルは、これから建てようとするものの参考になる部分が沢山あった。
まず窓枠。
以前何度かOさんから窓枠の作り方の説明を聞いていたが、イマイチピンとこなかった。コンクリートに木の枠を埋め込み、そこに窓ガラスを入れ、はめ殺しにする、と説明されていたのだが、コンクリートに角材を入れて、そこにガラス入れてもカッコよくなんかならないよー、といつも思っていた。
が、百聞は一見にしかずだった。
Oさんの話を聞いて僕がイメージしていたものより、格段によいものが仕上がることが解かったのだった。
他には巾木の入れ方、換気の窓、壁板の使い方、床の木材等、色々参考になった。

北国の暮らしで大切なのが暖房である。
最近は特に灯油が値上がりしているので、暖房効率は大切だ。それに、うすら寒いところで肩を張らせたまま食事をして、楽しいと感じる人はいないだろう。
でも、貧乏性の僕は、70坪の平屋の全体を暖めるのに必要な灯油代がもったいなく、お客さんが入っても入らなくてもず~っと暖めっぱなしというところが引っかかっていた。
こういう理由から、箱(コンクリートの建物自体)は大きく造っても、人が入っていないときはパーテーションで仕切って暖房面積を小さくできるように、厨房・トイレ・キャッシャー・クローゼット・おまけに入り口もかためて配置しなければならないと思っていた。そうなると、建物のサイズは9×30メートルなので、奥の方がガランとして何とも殺風景なイメージになる。

何とかならないか色々考えた。
暖房効率を考えると、天井にはもちろん扇風機をつけたい。(南国リゾートホテルの天井にある大きくゆっくり回るアレである。)あれは、北国では温まって軽くなり上に上がった暖気を下に循環させ、生活空間である下方も温める意図で設置される。
他には、地中深くパイプを埋めて地熱で暖められた空気を室内に取り込んで暖房とする工法まで調べたが、建設費用が莫大で却下となった。

ん?!やはり予算オーバーか?

参考にしたのが地中海にある建築物である。
あそこは気温は高いが日陰は涼しい、その条件の下でお金のかからない建築様式になっているらしい。
そこでひさしの下にアーチをつけて、外観をリッチな雰囲気にしようという事になった。しかしデッサンすると、大工さんどうやって作るの?的なものになってしまい、デザインは良いが出来るかわからないシロモノになってしまった。
これにはさすがのOさんもうーっとうなっていた。
しかし後日Oさんから連絡があり、その部分を大工に聞いたら、できるってよ。こう、こうするんだってよ。と説明が入った。
じゃあ出来るのかー、ということで、ひさしの下にアーチをつけるということで決定。

イラスト図

大まかなデザインが決定し、次は大きさをどうするか。大きさをどうするかによって、必要となる材料の量が決まってくるので、予算によって建物の大きさが決まってくるということだ。

これは経済寸法を基準にして考える。
型枠の板が182cm×91cmなので、これの倍数でいけば良いのである。
高さは364cmで決定なので、あとは広さをどうするかだ。
横91cmをつなげて行くと、10枚で910cm=約9m。9m四方の真四角の建物を作ると、81平米の建物が出来上がることになる。
基礎に使う砂利は、60cm以上ひかないと冬の凍結があるらしい。となると、81平米×0.6m=48.6㎥分の砂利が必要だということだ。
さらに、型枠板は単純に考えれば10枚×4方×2段+天井50枚=130枚必要になるのだが、これを前述した方法で三分の一にする。

次にコンクリート量。
壁や床の厚さを15cmとして計算すると、床81平米+天井81平米+3.6m×9m×4面=291.6平米なので43.74㎥。
他には、壁に埋め込む鉄筋ピッチどれくらいにするかで壁の強度が変わってくる。(ピッチ=鉄筋を埋め込む間隔)
当然、ピッチを狭くしたほうが強度が高くなるが、予算も高くなる。
上階をつけるとそれだけ強度も必要となるので、土地は余ってるので平屋にした方が安上がりだ。(ここら辺がいかにも北海道の建築事情だ。)
断熱材も、壁面積に応じて枚数が増える。
窓の予算もあなどれない。どこにどの大きさのものを入れるかで、ガラスの枚数も枠の数も決る。

他には出入り口(ドア)、給排水口(配管)、コンセント(配線)、防水ペンキ…細かいことまで考えてゆくと、しまいに頭が痛くなってしまう。
あと、予算上大きいのは大工さんを雇う工賃だ。
これら全部に、調べた単価を当てはめてゆくと、おおまかではあるが総予算が出てくる。
ここら辺で、どうも雲行きが怪しくなってきた。
これだけたくさんの物と人を動かして、Oさんの言った様な予算で済む訳がない気がしてきたのである。

常識的な感覚だと予算オーバー、というか、僕のお財布ではまず不可能な話だったのか?
やはりOさんはボケたことを言っていたのかなー、なんて事が頭をよぎる毎日だ。
おまけに、先にあげた試算は31坪ほどの計算だが、こちらの予定しているのは堂々70坪の平屋なのだ。スケールが大きすぎて、ますます手におえない気分になってくる。

具体的なデザインを考えてみることにした。

そんな話しを1回で理解した訳ではなく、Oさんの海荘に何度も出向いてはその度に同じ話しを聞き、ようやく理解したのである。
ある時は、秋田の友達から新米のきりたんぽ送ってきたから鍋しようよーと、持ちかけては建築の話し、あるときはOさんの知り合いがシャコをどっさり持って来たから食べに来ないかと言われ、シャコの殻をむきながら建築の話し。アワビをどっさりもらったから来ないかと言われ、アワビのステーキ(生より火を通したほうが断然美味しい)を食べながら建築の話し。こんな感じだった。

おおまかな工法を理解した後は、外観のデザインの話しになる。
経済寸法でいくと同時に、冬にトラブルのない設計にしなければならない。
モデルになったモービル小屋には人が住んでいないし、雪を除けるという発想のもとに建てられていない。降ったらそのまま、人が入らなくてもよいスタイルである。
しかしレストランはそうはいかない。お客さんの事を考えると、まず冬の事が頭をよぎる。まず、建設予定地は北から風が吹くので(つまり北側に雪が多く積もる)、南に窓をつければ北の窓は必要ないのではないかと考えた。
また、南側の窓を開閉式にすると暖房効率が悪いから、はめ殺しの窓にしよう、とOさんは言う。
でも、夏は南の窓だと暑すぎないだろうか。
それから、レストランの前は雪が溜まったらそのまま下に落とせるようにしないと雪を除ける作業がものすごく大変なので、レストラン前は狭くしたいが、夏は広々とした前庭があったほうが良い。
少しでも快適かつ合理的なデザインにしなければならない。

夏は30度冬はマイナス20度の環境の中で、いかにデザインするか。
予算があれば超機密性の設計で、夏はクーラー冬は暖房で済むが、こちらの事情はそうではないので、金のないやつは頭と体力を使うしかないのである。
そこで一つのアイデアが湧いた。
基本はコンクリートの箱型の建物である。
これを、南側の屋根を180cm壁より出して、ひさしにする。
そうすれば雪はある程度防げるし、夏は日よけになる。
このアイデアで建物そのもののデザインは決った。あとは細部のデザインである。

なるほど、そんな方法が…。

後日、Oさんの海荘にまた遊びに行った。
もうレストランの事は望みの薄い気持ちになっていたので、特にその話をしにいった訳ではない。この前の建築士こう言ってたよ。無理だよなー、というような話を何気なくOさんにした。すると今度はOさんが、
「何言ってるのー、プロの話は信じるなって。
経験のある大工はサイズさえ分かれば図面なくても建てれるの。まず、なんせ経済寸法で建物のサイズを決める。いわゆる材料の規格で建物を作るの。規格そのままで使えば切らないで済むしロスもないからね。
そして単純な形にする。それは長方形、それ以外ダメ。こっちを少し出すとか引っ込めるとか、ちょっと変わったことをしようとすると、手間と材料がかかる。そしてそれが全て金額にはねかえってくる。
そうすると、経済性でサイズと形が決ってくる。それからデッサンなど繰り返しして、イメージを創り上げる。
大体決ってきたら、内部の間取りなどを考える。
そして入り口の位置、窓の位置、トイレ・厨房などの水周りの位置が決れば、配管の位置が決る。あとコンセントの位置も大事だな。
そういうのを全部決めたら、土木の重機を借りて、引退した土木作業員でも頼んで1週間で土木工事を終える。
そこに砂利をひいて配管を床下に作り、それから大工に頼む。
大工はそこに型枠を造っていく。
型枠が出来たら生コンを流し込む。
型枠は経済寸法でいくから切る作業もない、切っていないので使い回しがきく。
どういう事かというと、板は182cm×91㎝だから、天上までの高さを2枚分の高さつまり364cmにする。
まず型枠を組んで下段を作り、そこにコンクリートを流し込む。そうすると建物の下半分が出来る。固まったら下段で使った型枠を外して、上段で使う。壁上段が固まったら、さらにそれを外して天井で使う。
そこまで使いまわすと、型枠板の必要数が三分の一で済む。
あと、屋根は特に大事だ。雨漏りすると困るし。
屋根は壁より20cm位外側に出せば壁を伝って雨漏りしない。
断熱材は型枠の内側に入れてコンクリートを流せばそのまま完成となる。
あとは浄水槽が必要だ、あそこら辺は下水道がないからな。手順は分かっているから心配するなー。
これを全部プロに頼んだらどうなると思う?
現場監督は必要だし、設計士が図面を書くし、おまけに建築会社の利益まである。資金がいくらあっても追いつかないよ。」
なるほど。そんな方法があったのか…。

建築士の意見にやや凹む

やはり現状でいくらかかるか全く分からなかった。Oさんが物置を建てた頃とは資材の値も違うだろうし、同じ土木工事・同じ地域でも、場所が違えば条件は全く変わる。
ある週末、Oさんの別荘(海荘)に遊びに行こうと子供を連れて出発し、買い物がてら大型スーパーに寄った。
そこで偶然一級建築士の友達YMに会った。
「何してるの?」
「ブラブラしてたよ。」
「これから友達の家に行くけど一緒に行かない?」
「いいの?」
「いいよー、行こう行こう」
と、そいつを連れていった。
そして海荘でお互いを紹介して、庭でバーベキューをしながら建築談義となった。
その後、レストラン計画の話を打ち明けた。
いいねー、安く設計するよ、ってな感じでワキアイアイだったが、金額を言うと建築士は全く何を言ってるの??となった。土を自分で盛って竪穴式住居を作っても、まぁ家として住めるからねー、と。つまるところ、Oさんの言った金額では土盛り程度しか出来ないということだ。
しかし、実はこの別荘(海荘)もOさんがモービル物置と同じ工法で建てたものだったので、話しは早かった。Oさんは建築法の全てを説明した。建築士は色々な質問をして、Oさんは答えていたが、こっちは基礎のきの字も知らないド素人なので、はたで聞いていても全く分からなかった。
帰りの車の中でもう一度建築士YMを質問攻めをしたが、帰ってきた答えは
「絶対無理。お前が無職で時間があって、なおかつOさんくらい知識とバイタリティーがあれば別だけど。」
そーかー、まず無職が無理だなー。と思い、少し落ち込んだ。
その時はプロの言う事をそのまんま信じてしまったのである。

豪雪に耐える物置を見に行く

まず、その広大な土地のどの部分に建てるかの検討に入った。
やはり道路沿いで目だって、車が入りやすく、何といっても眺望が良いところ。
その条件にあった場所はすぐに見つかった。道路から2メートルほど高くなった小高い丘のようになっている場所がある。ここがいいんじゃないか?とOさんは言ったが、僕は眺望が気に入らなかった。道路をはさんで前に木と防風壁があり、せっかくの山の景色を遮るからである。そこで、丘を上がってもっと上に造ろうと提案した。するとOさんはこう言った。
「上にすると、お客さんが歩く距離が長くなる。夏はいいけど、冬に雪が降ったとき30mも歩きたくはないでしょ。あと、土木工事に金がかかりすぎるよ。」
そこで、Oさんの提案通りの場所で、屋上にも上れるようにして眺望を楽しませるという結論になった。
次に建物だ。何せこちらは財産なんて縁のない貧乏人、いかに安く建てるかの検討に入らなければいけない。
Oさんは、
「母屋の隣にモービル入れている小屋あるだろー。あんな感じの建物でどうだ?」
「あれかなりデカイよね?」
「うん70坪の平屋。」
「そんなにでかいのかー。しかもあれ鉄筋コンクリートだよね、いいけど高そうだよなー」「ふふん。あれ幾らで建てたと思う?」
「知らんよー、そんなの。」
僕はそういう事を何も知らずに生きてきた。建物の基礎ってのが何だか分からずに、恥ずかしい思いをしたことさえある。興味の範囲外であった。
ただ思ったより安いのは確かなようだ。
しかも金額だけではない。このあたりは降雪量が5mにもなる地域である。Oさんは件の平屋建てを20年前に建てたらしいが、この地域で手入れをしないで、屋根の雪下ろしもせず、冬の間5mの雪を乗せたまま20年も壊れずに現存しているのは、Oさんのその物置しかないのだ。
イコール、あれと同じ構造のものを作れば少なくとも20年はこの土地で建っていられるという事になる。ちょっと慌てた。
モービル遊びのときはただの物置としか見ていなかったので、記憶があやふやで細部まで覚えていない。
「もう1回よく見ておいでよ。」
そこで、改めて偉大な物置を見にいくことにした。
外部から見ても内部から見ても、建物そのものは見事に壊れていなかった。窓枠には全てベニヤ板が打ち付けてあってまさに物置だが、建物そのものは相当頑丈に建っている。雨漏りもなし。
大丈夫だー。
僕の心は次のステップに向かっていた。 

60センチのアイナメを銛で突く

ある日僕が仕事に精を出していると、プルプルとメールが来た。
見るとメールは知人のOさんからで、持ち上げているのは魚。Oさんの首から腹の下まであるので、どうみても70センチ以上はある魚(あいなめ)と横に異国の女性を携えている写メ付きだった。メッセージには、モリで獲ったと書いてある。悠長に釣るのも面倒なので、土佐モリを入手して漁をすることにした、というのだ。ウミンチュか?
浅い海にそんな大きなあいなめがいるのか?と僕は半信半疑だった。

そこで次の週、僕もOさんと一緒に海に潜ってみた。すると、
本当にいたーっ。大きい。
(このエリアではそんな大きなあいなめは釣れないよ、と釣り人は誰も信じてくれない。だが、大きく成長する魚は目の前の餌が大丈夫かどうかの危険察知に長けているのではと思わずにはいられない。修羅場もくぐるだろうし釣り糸をくぐって生き延びているのじゃないかなー、と思った。)
Oさんにモリを借り、僕も魚に挑んではみたが、潜りが下手で魚の深さまで行けない。急いでOさんを呼んでポイントを案内すると、見事に魚の深さまで潜り、真横からモリを突いた。
ゲット。
暴れる魚をモリに刺したまま、抜けないように岸まで運んだ。
水から出してみると60センチはある。
で、すぐに内臓を出して持ち帰った。
そして尾さん邸で、刺身にヅケにあら汁に、とあいなめ尽くし。死後硬直で身がゴリゴリするくらい硬いが、新鮮だからおいしいんだー!とか言いながら、おいしく頂きつつ、その時はあいなめが高級魚だとは知らなかった。

そのOさんが、海荘とは別の場所に広大な土地を持っている。
ある時尾さんが、そこにレストランを建てないか、とぼそっと言った。そのときは何気なく聞いており、まさかここから話が発展してゆこうとは思っていなかった。
その土地は、国道沿いの峠の頂上に近く、標高800m位の場所。そこの国道沿いの右手の広大な一帯がOさんの土地らしい。
そこの一角に2階建ての別荘(山荘)がポツンとあって、横にはテニスコートが1面、奥に大きな物置とブルが入っている東屋がある。
先に書いたOさんの別荘(海荘)と違って何の使い道もなく、冬にスノーモービルで遊ぶためだけにある土地といっても良い。
周囲の国有林の中はモービルで走り回ってはいけないことになっている。新芽をモービルのキャタピラがダメにするからだ。なので、大手を振って遊べるのがそのOさんの広大な土地なのである。

僕はスピードが嫌いなので、ゆっくりと沢を下って雪景色や川のせせらぎを聞きに行ったりと、冒険をするよりトレッキングに近い遊び方をする。あと、スノーボードをロープで引っぱってもらい、ウェイクボードの雪上編みたいな遊びをしたり。
先に書いたレストランの話は、そんな遊びを何シーズンかしていた時にフッとOさんが言い出した事だった。
「ここにレストラン作ったらどう思う?」
「ん?冬は良いだろうけど、夏はわからないな。」
というのは、Oさんの土地の横を走る幹線道路は、とある有名なスキー場への通り道だからである。僕は夏はそこを通らないのである。
「でも夏も結構車通るんだよなー。」
「へーそうなんだー。」
調べると確かにそこは観光道路みたいな感じだった。展望台があるし、夏も車の通りが多い。なおかつ、ほとんどレストランの類がないのである。
じゃあ作ろうかー、と、ごく簡単な発想で、話しがスタートしたのである。

道路を切り拓くところから始める!?

次にきた話は(よくもこうタイミングよく話が舞い込んだものだと思う)、幹線道路の峠からしばらく入った真四角の土地だった。
僕の大好きな山が眼前に見える、グッドロケーション。
そこの持ち主は持っていたのを忘れていたらしく(ここら辺が北海道開拓2世のおおらかさ?)、僕と話をしているうちに
「そういえばー」
てな具合に話し出した。
「あそこに15000坪の土地があるが、そこまで続く道がないから、道を自分でつけるなら自由に使いなさい。その代わり重機は自分で買わないと開拓できないよー。なんなら来週地図をもってきてあげる。」
と言い出した。
へーいいなー、と思った。
こちらは聞いた住所を不動産屋の友達に伝え、その一帯の住宅地図を取り寄せて、準備してみた。ついでに実際の土地を見に行こうと考えたのだが、ランドマークといえばその土地の下手に採石場があるのみで、市内からのアクセスを考えようにもその土地を特定する事すら出来なかった。北海道は広大なのだ。

一週間後、再び地主さんに会って話すと、
「GDPとかいう航空写真で見ると、知らない間にその土地まで林道が通ってるよー、あんたラッキーだねー」
と言われた。
まだ現地にも行ってない上に、道をつけるのがどれだけ大変かわからない状態だったので、言われるままにラッキーなんだーと思い、その森に生えてる木を切ってログハウスをつくる計画なんぞ話していた。
何本木があれば良いだろうとか、地主さんも、俺も手伝うからよー、手伝ってくれる友達も紹介するからよー、と、二人で時間を忘れて夢のようなログハウスを頭の中で建てていた。
ところが数日すると、地主さんとの共通の友人である尾さんから連絡が入り、道が無かったときは二束三文だった土地なのだが、道がついたので価値が出て、地主さんが貸し惜しみムードになっている、と知らされた。
僕もそんな降って湧いた話なんかあるのかなー?と最初から思っていたし、心優しい地主さんとトラブルめいた事になるのも嫌だったので、ここも縁が無かったんだと思い、あっさり諦めた。
あそこに林道がまだついていなかったら、今頃は毎週チェーンソーをもって森を切り開いていたかもしれない。切り出した木を引っ張り出して、まずは道路を造り、それから笹を刈ったりなんだりと手を入れて、別荘を作っていたのかなー。

キノコの天ぷらが...ガソリン臭い?!

MEちゃんはマラソンと、晩酌もしくは昼酒と、一度出ると1ヶ月位戻らない海外旅行をこよなく愛するごく普通の赤鼻主婦である。
僕が「その鼻は酒焼けだよ」と言っても絶対認めない、普通の主婦である。
ハワイのホノルルマラソンに出場するため2週間前から現地に入り、レース後現地で休養1週間、当然のごとく毎日酒てな感じの普通の主婦である。
(去年MEちゃんの別荘に泊まりに行ったとき、僕はMEちゃんの友達と一緒に晩酌を楽しんでいた。次の日の朝起きて、ちょっと二日酔いで具合悪いなーと思いながら居間でまったりしていると、MEちゃんを含めた3人が起きてきて、おはよーなんて言いながら、水を注ぐように、ごくナチュラルかつ無駄の無い動きで、お互いのグラスに焼酎を注ぎ出したのだ。そして、朝から「乾っ―杯―っ!」だって。
僕はすっかり二日酔いを治してもらった。朝8時前の出来事であった。)

そんな普通の主婦が、めったに無いことに、とってきたキノコを天婦羅にしてくれるというのだ。
赤い鼻を益々赤くするほど魔法の水を飲んで台所に立っていたMEちゃん。
山荘の持ち主、Mさんに、「天婦羅粉はどこ?」「小麦粉でいいよ~」「ボールはどこ?」「そこら辺の鍋使って~」「飲料水はどれ?」「ポリタンクの中だよ~」(雪解けの時期だったので、山荘にひいた湧き水に細かい泥が混じっており、あらかじめろ過した水を飲料水としてポリタンクにためてあったのだ)てな感じで聞きながら、準備を順調に続けていた。
この時、梅ちゃんは早くも第一のちょっとした異変に気付いていた。囲炉裏端からふと振り返ると、天婦羅の衣を用意しているMEちゃんが、なぜか台所の床にしゃがみこんでいる。でもその時はさしたる異変とも思わず、お箸でも転がしたのかな?なんて梅ちゃんは思っていた。

しばらくすると、天婦羅の衣をボールに入れてMEちゃんが登場、みんなで囲炉裏を囲んで炭火で天婦羅。MEちゃん・NA女史・梅ちゃんの女性陣が、仲良く頭を並べて天婦羅の面倒を見ている。
3人は、椎茸のほかにもイタドリ・ウドなど、次々に揚げていった。
MEちゃんは、「あ、触らないほうがいいよ。動かすと衣が脱げちゃうから」なんて先輩らしく梅ちゃんに言っている。梅ちゃんは、「ん...?ウン...」なんて首をかしげながらお返事。後で聞くとこの時、梅ちゃんは第二のちょっとした異変に気づいていたらしい。強火でカラッと揚げているのに、揚げるそばからするする衣が脱げる気がする...?と思っていたのだ。

出来上がった天婦羅を一同喜々としていただいた。だが次第にその顔つきは微妙になり、やがて首をかしげ、ついにとある疑問が発せられた。
「...何かガソリン臭くない?」
「そうだねー...なんか匂うねー」
「どっかに灯油がこぼれてるのかな?」
と言いながら、匂いの元を追っかけた。すると突然、一番囲天婦羅鍋に近かったNA女史が、衣が入っている鍋をつかみ、鼻に近づけた。
「これ...もしかしてこれじゃない?」
一同唖然とし、鍋を廻して匂いを嗅いだ。間違いなくガソリン臭。よく見ると、天婦羅の衣は鍋の中で怪しく分離している。
MEちゃんは、酔った勢いでテーブルの上に置いてある飲料水の白いポリタンクを無視し、テーブルの下にあった青い灯油のポリタンクから、小麦粉の鍋にたっぷりと注ぎ込んだのである。
これを知ったMEちゃんはショックのあまり一同に謝り謝り、(おおらかなMさんは「大した違いじゃねーよ」と更に灯油天婦羅を口にして見せたりしたが)挙句の果てに大泣きして奥の部屋に走り込み、篭城してしまった。

みんなで慰めて扉を開けさせるのにしばらくかかった。
今となっては感慨深い初夏の思い出の一こまである。

野生の王国できのこ狩り


きのこ狩は不思議なもので、初め周りの色彩に溶け込んできのこが全く見えないのだが、一つみつけると、ほらそこ、ほらあそこ、といった具合にたて続けにみつかるものである。
獲物は近年希少価値の高い落葉きのこだから、そんなに採れないだろうと思っていたのに、それぞれが手にしていた買い物籠やザルはすぐ一杯になってしまった。

リンゴ狩り並みにざくざくモコモコと珠玉のキノコが生えているので(一同ウホウホのウキャウキャだった)、今年はどこでも豊作なのかと思いきや、他の所は軒並み不作だったらしい。
Mさんは知っているのだ、落葉キノコの胞子を、湿った土に着床させる術を。キノコ王国を創り出す術を。しかしこの秘伝の技の説明はあえて省略しよう。

そんなMさんの別荘地の隣に別荘を構えて、楽しくないはずがない。美味しくないはずがない。
おまけに、件の土地の中には自然河川が流れているので、山女が釣れるのだ。
しかも私有地だから魚が人慣れしてない(めんこい!)ので入れ食い状態。イクラでも餌に釣り糸を流せば、ものの20分でちょうど塩焼きで丸齧りが美味なサイズの山女が4人でたっぷり食べられる位は釣れる。ここまでくると、自然の力の偉大ささえ感じる。

季節の変わり目が苦手らしくうつろな目つきをしているのを半ば強制連行してきた梅さんが、到着してからものの2時間で、熊の子のごとくしぶきを上げつつ獲物をぶら下げて清流の中を走り回っている。
そんな野生の王国的土地が、15000坪。
これはいいなーと思い、土地を見がてらMさんの別荘に通っていた。

すると、Mさんの王国の豊かさを、その度に思い知らされた。
敷地内に畑があるのは当然の事で、何よりうらやましく思ったのは土地の一角で大々的に椎茸栽培が行われていた事だ。時期になると、様々な品種の椎茸がムックリモコモコニョキニョキと原木から顔を出す。
それをムッシムッシと手摘みにして、そのままMさん邸の母屋にある囲炉裏端で豪快に天婦羅にして食べると、これが美味しい。
素焼きにして食べると、これがまた美味しい。
バター炒めにして食べると、これがまたまた美味しい。
椎茸にも鮮度があるんだー、とつくづく実感した。

山菜を愛する遺伝子が・・・。


喜んでいたのもつかの間、数日後、T社長から、放送禁止の差別用語連発でぷりぷり怒りながらの電話が来た。

地主が法外な金額を言っているらしい。昨年までの地代の4倍の額だ。
「あんたー、あんなバカな地主はほっておけー」、で、結局取り次いでもらえなかった。
結構(かなり)乗り気だったのだけど、それでこの話はボツになってしまった。
それで判ったことだけれど、実はこのエリアはここ数年オーストラリア人が入植してきて、小バブルが起きている。しかしバブルは中心街だけで、この壊れた家のある地区までは来ていないのだ。
法外な金額を提示して今夏に借り主が決まらず、誰も手入れをしないままだったら、この家は今冬の雪の重みに耐えられない。潰れてしまう。
もったいないなー、少額で直せる現状で借り手がつけば、地主にとってもいい話なのにー、と思いつつも諦めた。

次に来た話は、退役老人のMさんからだった。
「俺の土地の向かいの奴が、売りたいって言ってるぞー。」
そこは海の近くのMさんの別荘地の向かい。
海の近くといっても海岸線から10分ほど山に入った所で、海から近くはあるが、山の中。でも山菜の宝庫!(長い冬を耐える北海道人の血には、山菜をこよなく愛する遺伝子が組み込まれているのだ。)

ある春、僕らはMさんの別荘地に山菜採りに招かれた。そこは予想を遥かに上回る規模と豊かさの山菜王国だった。
ウド、コゴミ、タラの芽、イタドリの芽、山百合の根、フキなどがざっくざく。おまけに本さん独自の栽培方法でホワイトウド(根深葱・ホワイトアスパラと同じ製法だけど)まで食べられる。通常アク抜きという下処理が必要なウドが、そのまま食べられる。これがまたうまいのなんのって、酒を飲まずにいられるかって。
このMさんはウドを初めとして様々な山菜を手なずけており、驚いたことに落葉きのこ(これまた北海道人が骨髄から愛してやまないキノコ)まで自在に操っているのだ。

この秋にMさんの所でキノコ狩りをさせて貰った。同行したのはきのこ採り名人梅さんと、アル中気味の赤鼻マラソンランナーMEちゃん、OさんとOさんの介護人NA女史である。それぞれ別荘にある手籠などをとり、庭と呼ばれる美しい傾斜地に立ち入った。
本さんによってきれいに間伐されたから松林は、ふっかりと落ち葉が積もり、よくよく目を凝らすと雨で塗れた草花にポコポコときのこが顔を出している。