その日、私は某体育館の卓球場にいたのであります。
「ナガイさ~ん! もっと前傾姿勢でかまえて~!」
ほかにもたくさん人がいるのに、先生は私の固まったようなポーズが気になるらしく、先ほどから卓球の基本である前傾姿勢を求めてくるのです。
わかってんだよ。やればできるんだよ。でもさっきから屁が出そうなの。
まだタマを打ち合っていないため、卓球場はとても静かなのであります。ここで私の屁が飛び出してしまったならば、大晦日の除夜の鐘よりもスルドク響き渡るに違いありません。
「ス~~」くらいのすかし屁ができればベストですが、抑圧された私の中のガス生命体は爆発寸前なのです。前傾姿勢むり。
「それじゃ皆さん、台に着いて~、フォア打ち始めてくださ~い!」
先生あきらめてくれました。やっと打ち合いです。屁をしても音にまぎれるでしょう。あ~良かった~・・・って安心したその瞬間、
「ぷぷぅ~~~~~っ」
ハイ。出てしまいました。まわりの笑顔がココロに痛いです。
さて、なぜに屁が制御不可能にまでなってしまったのか。それは前夜オークボくんちで食べたものが原因なのであります。
自然薯(じねんじょ)というイモであります。このイモは強力な屁の素です。

これが自然薯。写真は栽培ものでまっすぐだが、天然ものは土中の石などをよけて伸びるため、すごくクネクネしている。掘り出すのが非常に困難なため高値。1本へーきで4~5000円する。
この自然薯は私の友人ナカタさんからもらったもので、とろろめしにするとうまいということで作り方を教わり、オークボくんに料理してもらうことにしました。
作り方をとっても簡単に言うと、
自然薯すりおろす → サバのだし汁とまぜ合わせる → 麦めしにかけて小ネギを散らす。以上おわり。
と、5秒くらいで説明できるのですが、2項目目の「まぜ合わせる」がクセモノであって、全力で30分以上すりまぜなければならない上に、失敗すると分離してどーにもならなくなってしまうという労力と緊張感をともなう料理なのでありました。

自然薯は包丁で毛をこそげ、皮をむかずにすりおろす。長イモよりはるかに強いねばりがあり、すりばちの底で「ボヨヨ~ン」としている。

すりおろしたボヨヨンを、なめらかになるまでスリコギでひたすらする。ボヨヨンがスリコギにまつわりついてなかなかすれてくれない。ボヨヨンが憎い。

ボヨヨンに新鮮な生サバから取っただし汁を合わせていく。いっぺんに合わせると分離するので、はしからちょろちょろ流し入れながら全力でスリコギをまわす。ボヨヨンはだんだんフワフワになってくる。

だしを取ったあとのサバの切り身を1~2切れ入れ、すりつぶしてまぜ入れる。

めしにかけて完成。今まで必死にすりまぜていたのがウソのような、美しく輝く自然薯の水面。サバだしの良い香りがココロと胃袋をわしづかみ。

「これ、なんぼでもイケるわ!」と、とろろめしをすすり込むオークボくん。ふふふ。明日、屁たれ大魔王になることも知らずに。
必死ですりまぜること約40分。でも、食べ終わるのに10分もかかりませんでした。めしが入っているとはいえ、ほとんどかまずにつるつるとノドに入っていくのです。あっという間にすり鉢は空っぽであります。
いやいやたいへんだったけど旨かったね~などと皆で言いあっている時、茶碗の底を見つめていたオークボくんが言いました。
「そ~か、自然薯は食べるものじゃなくて、飲み物だったんだ!」
・・・いや、飲み物じゃないと思いますけど。
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