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酒の一滴は血の一滴

TDRが嫌いな子

東京ディズニーリゾート。
年間入場者数2000万人
リピーター率85.0%強
今年で開園25周年を迎え、今なお拡張し続ける夢と魔法の国。

「バッターボックスに立つたびに満塁ホームランを打つ事は出来ない。
それに1塁に出るためには常にバットを振り続けなければいけない事もわかっている。(ウォルト・ディズニー)」

ええ事言うやないか、おっさん!

実はこの人、大の反日家であり、昔のアニメではミッキーがゼロ戦を打ち落とすシーンもあったりするのです。
けど、許す。

混雑しているのはわかってる。
貨幣価値観が狂ってしまい、予想以上に散財するのもわかってる。
けど、楽しい。
我が家では年に1度はディズニーランドへ行く事を目標に、今日もせっせと500円玉貯金を続けております。

ランドに足を踏み入れた日にゃ、もうウキウキ。俗世間の事など舞浜の駅のゴミ箱に押し込んで、スキップ、スキップ、ランランラン。
経営戦略が"子供"を対象にしているのではなく"子供心"が対象って言うところが憎いじゃねぇか。

そんな四十路の男が夢中になってしまうような夢と魔法の王国なのに、
「もう、絶対行きたくない。」と力説する男の子に会いました。

「ディズニーランドなんか、大っ嫌い!もう絶対行かない!」
会話の糸口を見つけるつもりで出した話題、大抵であればそこから盛り上がって医師・患者間の距離を一気に縮める事が出来る本命中の本命。絶対の安全牌を切ったつもりでしたが、これが地雷でした。
ディズニーランドが嫌いな子供が存在する事にショックを覚えましたが、それ以上に感情を露わにして、眼に涙を浮かべながら力説する彼の尋常ではない反応に違和感を覚えました。

後日、ご両親から聞いた話ですが、彼はもともとディズニーが大好きで小さい頃からビデオや絵本を見続け、部屋には縫いぐるみが溢れんばかりにひしめいていたそうです。
ディズニーランドに行きたくて、行きたくて、ただ病気の為になかなか許可が下りず、やっとの思いでその日を迎えました。
当日は車椅子も調達し、ランドにもあらかじめ連絡を入れ、急変時にはランド内の医療施設で初期治療が行なえるように必要な医療情報提供書を準備しました。
天気もバッチリ。気温もバッチリ。
暑くもなく、寒くも無い最高のディズニーランド日和。

初めてのランドに興奮しつつ、目をキラキラ輝かせ、次に乗るアトラクションを相談し、ポップコーンを頬張り、気分は最高潮。
そんな時、他のお客さんの心無い一言が一気に彼を突き落としました。
「ママ、あの子の顔、気持ち悪~い!」
彼は抗がん剤の影響で髪の毛は全て抜け落ち、脳腫瘍の手術の影響で顔の左側が麻痺し、こぼれるよだれを止められないのです。
もし自分の子供がこんな事を言おうモンなら横っ面引っ叩いて一緒に土下座しないと気がすみませんが、その子の親は違った。
「わぁ、ホントだ!気持ち悪いねぇ。」
大のおとなが、指差して言い放ったのです。
それも聞こえよがしに大きな声で。

最っ低!

お前ら親子、ディズニーランドに来る資格無し。
足、開け。
歯、食いしばれ。
目、閉じろ。

もう、全て、遅すぎました。
彼のテンションは、いくら両親がフォローしようにも立ち直ることなく、帽子を目深にかぶり、ランドを出るまで視線を上げる事がなかったそうです。帰る頃にはひざ掛けは溢した涙で重くなっていました。

『ミッキーも、僕の顔を気持ち悪いと思ってるんだ。』
『他のお客さんも僕の事をそんな風に見てるんだ。』
『僕、ディズニーランドなんか行かなきゃ良かったな。』
長年憧れ続けていた夢と魔法の王国は、彼の心に深い傷を付けた最悪の場所となってしまったのです。

既に彼は遠いところへ旅立ってしまいました。
大丈夫。天国にも絶対ディズニーランド、あるよ。
そこでは髪の毛はフサフサに生えていて、何不自由ない身体でミッキーといっぱい写真撮れるよ。アトラクションだって乗り放題だよ。
絶対楽しいって!
またディズニーの事、好きになれるって!

先生が保障するよ、絶対。


(2008年05月01日)

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