美唄労災病院。
非常に働きやすく、そして働き甲斐のある病院でした。
元は炭鉱で発展したこの町の病院には、今でも「脊損病棟」と言うものが存在し、坑道の落盤事故で脊髄に損傷を受け、下半身だけでなく首から下が不随になってしまった患者さんが大勢入院しています。
車椅子の時間が長かったり、ベッドに臥床したは良いものの寝返りが打てず、お尻や背中に床ずれが出来てしまっている患者さんが自分達の担当でした。
患者さん方は自分で動く事も儘なら無いので、ベッドと車椅子間の移動にも援助を必要とします。
体重が100kgもあろうかと思うような患者さんを40kgも無い様な小さな看護婦さんが担ぎ上げて移動のお手伝いをしている情景は頭が下がります。お風呂に入れるのも看護婦さんの仕事。外は真冬であるにも関わらず汗だくになって患者さんを湯船に入れたり、身体を洗ってあげる彼女達は既に看護婦の領域を超えた存在と言えましょう。
病棟回診の際、回診台(ガーゼや軟膏、テープなどガーゼ交換に必要なものが揃っている台車)と一緒に部屋から部屋へ移動するのですが、この回診台を押すのは看護婦さんの仕事。医者は悠々と手ぶらで歩きます。
ただ、一つ言わせていただきたいのは、何も自分達が偉ぶっている訳ではありません。
ある日、看護婦さんが忙しそうに走り回っていたので一人でガーゼ交換をしようかと回診台に手を伸ばしたところ、
「先生!触っちゃダメ!」
と、50cm定規をこちらに向けた婦長から怒られました。
「先生は色んな患者さんの傷を触っているでしょう。もちろんその度毎に手を洗っているけど、完全に消毒された保証は無いんです。もし消毒し切れていない手でその台に触ったら、ガーゼや器械が全部汚染されてしまう危険があるんです。その汚染された器械で違う患者さんを処置したら、どうなると思っているんですか!」
「は、はい、すみません...。」
「先生、誰のガーゼ交換したいんですか?今、付ける子探します。」
何というプロフェッショナル意識。
可能な限り感染の危険性を押さえ込むために、自分達の仕事を割り切り徹底されているのです。その為には看護婦が医者を叱り飛ばす事も厭わないし、医者も反論できません。
仕事中に呼ばれ、自分に付ついた看護婦も不平一つ言いませんでした。
「先生!待った?ごめんね、行こう!」
「ハイ、こちらこそ、お願いします。」
婦長さんから離れたところで、その看護婦がそっと囁きました。
「先生はさ、不潔なんだよ。けどさ、手袋しないで素手で患者さんに触ってあげてくれるって、あたし達としても嬉しいんだよね。これからもどんどん素手で触ってあげてね、あたしらが手伝うからさ。ちなみにね、先生、評判いいよ。けどさ、患者さん達もさぁ、感覚無いはずなのに、何で手袋か素手かが解るのかなぁ。」
今では院内感染の徹底予防という名目で、患者さんの処置に際しては手袋の着用がほぼ義務付けられています。ただ、やはり人肌の温もりが相手に対し与える安心感は何物にも変えられないのでしょう。
10歳以上離れた新人看護婦に言われるまで意識することなく行なってきた自分のやり方は現代では間違った方法なのでしょう。ただ、「手当て」という言葉があるように、患部に手を当ててあげる事が診療行為の基本であり、肌と肌の間にラテックスの生地が挟まっているのは何ともしっくりしないのであります。
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