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酒の一滴は血の一滴

医師不足

ここ最近、地方の病院のみならず比較的中央に近い病院での医師大量辞職の報道を耳にします。
「一斉辞職」と言う事態に至るまで、あらゆる問題があった末に出された一つの結論だと考えますが、皆さんはどのようにお考えでしょうか。

過去、色々な病院に勤務し、その度ごとに違う待遇を経験してきました。
中には非常に医師が優遇されている病院もありましたが、また一方では非常に過酷な労働条件下での勤務を余儀なくされた病院もあります。
全ての事件がこれによるものである訳ではありませんが、現実に存在する一つの決して小さく無い原因に関しお話させて頂きたいと思います。

既に5年以上前ですが、自分が某総合病院に勤務していた頃です。
その病院の形成外科医長は自分が尊敬し、是非教えを請いたい先生が就任されていました。診療は月曜から金曜日、土曜と日曜は休診日ですが入院患者さんがいますから当然自分は出勤してガーゼ交換やカルテ記載を行ないます。尊敬している先生にはお休みいただいて、格下の自分が休日出勤することに何の抵抗もありませんでした。休日に顔を見せれば患者さんも喜んでくれますし、当然との思いもありました。

ただ、この病院、給料が異常に安いのです。

勤務時間は朝9時から夕方の5時まで。患者さんの様態に変化があったり手術が長引けばもちろん時間通りに帰る事はできません。帰りが夜の8時9時になる事は日常茶飯事。このペースで月曜から金曜まで。土曜と日曜日はガーゼ交換と患者さんの診察をかねて朝9時頃から12時頃まで。深夜呼び出しアリ。休日呼び出しアリ。呼ばれたら30分以内に到着せねばならず、このため休日でも遠出は不可。

お給料は、手取りで15万円前後。年収180万円。
通勤手当無し、休日出勤手当無し、時間外手当無し、冬季暖房手当無し、出張手当無し、ボーナス無し。更に毎月の医局費の請求あり。

別にお金が欲しくて働いている訳ではありませんが、せめて生活できるくらいのお給料は頂きたい。
院長を交えた会議で何回もこの問題に関して討議が交わされました。
濃厚な先端医療を患者さんに与える立場の人間が、満足に学会に参加することも出来ない。本も買えない。どのようにして知識と技術を習得しろと言うのか、この給料では勉強するどころか日々の生活さえも満足に送る事が出来ない。

こういった意見が出るたびに経営陣の応えはお定まり
「お金が無いんです。診療報酬改定が云々...、施設拡張工事に要したお金が云々...、施設の維持やメンテナンスに掛かる費用が云々...。」

何故無いのか、ベッド占有率は基準を満たし、患者さんも外来にあふれている。手術もコンスタントに行なわれており、患者数の減少は数値上認められない。他の病院ではもっと空いていたのにここの倍以上の給料を貰っていた。他の病院に出来て何故ここで出来ないのか。喧々諤々。

結局自分は最後の月もお給料は15万円でした。もちろん退職金なんかありません。ただし、最後まで患者さんの処置は手を抜かなかったつもりです。患者さんには何の責任もありませんから。

何も給料を月に100万円のところ200万円に上げろと言っている訳じゃない。生活できるくらいの給料を貰いたいだけだ。さすがに月15万円では生活できず、参加したい学会を諦め、買いたい本を諦め、飲み会を諦め、旅行を諦め、バイトの当直を月に何回もこなします。当直先が忙しかった日には殆んど寝れず、睡眠不足のまま翌日の通常業務をこなさなくてはなりません。注意力と集中力の維持が極めて困難です。
けど、やるっきゃない。だって生活できないんですもの。3人目を身篭った母ちゃんと二人のガキがお腹を空かせて待っているんですもの。

自分がこの環境に身を置いていたのはホンの1年間でしたので、何とか勤めきる事ができました。良い上司と良い同僚に恵まれた事が大きかったと思います。ただ、今現在も同じ環境で働き続けている医師がいます。
何年にもわたり何回も同じ議論を交わし、現在自らが置かれている状況を訴え続けたにも関わらず、何ら環境が改善することなく経過し続けたら、モチベーションを維持する事は困難です。
患者さんの生活や命を救うのはもちろん大事。その為に選んだ仕事な訳ですから。ただ、僕達も家族を持った人間です。家族も守らなくてはならない。その為にはお金も必要なんです。贅沢したい訳じゃない。
ボランティア精神だけでは乗り切れない現実は確実に存在するんです。

医師が待遇改善の要求をする事は、おかしいですか?


(2008年04月17日)

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