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酒の一滴は血の一滴

わしら、アホや

今ではちょっと大きな病院になると外国語に対応できるように通訳さんが常駐されていらっしゃいます。英語はもちろん、韓国語や中国語、フランス語、スペイン語など、中には手話の通訳さんもいらして耳の不自由な方の診療にも大きな力になってくれています。

そんな体制が整うことの無かった10年以上前、救命センターに勤務している頃、救急車からホットラインが鳴りました。
「患者さんは30代、男性、お腹を痛がっています。Vitalは…」
「わかりました。あとどれくらいで到着ですか?」
「5分くらいで着けると思います。」
「わかりました。気をつけていらして下さい。」
「あ、ちょっと患者さんに問題がありまして…」
「は?」
「実はポルトガル人らしくて日本語が全く通じません。」
「え~~~~~~~!」
「では、よろしくお願いします。」
救急隊きったねぇ~!最初にポルトガル人って言ったら受け入れ渋ると思って最後に報告しやがった!
おいおい、誰かポルトガル語わかる奴いない?
「先生!たしか『ランドセル』ってポルトガル語だったと思います。」
「へ~、よく知ってんなって、バカ!意味ねぇジャン!」
「先生!次は中国人が救急車で来ます!日本語通じません!」
「中国語喋れる奴いねぇ?」
「あ、このまえ実習に来ていた子に中国の留学生がいました!」
「速攻でつれて来い!」
「ホイコーローって…」
「バカ!お前喋るな!」

ポルトガル人の患者さんが到着してからもう大変。
カルテを作ろうにも名前もわからない。喋っているのが本当に名前なのか症状なのかの鑑別さえもできない。身分証明書なし。
もう、「底抜け脱線ゲーム(古い?)」ばりのジェスチャー大会です。
あなたの(相手を指差し)名前(自分の名札を指差し)は?(両手のひらを上に向け肩をすくめる)
誕生日(カレンダーを見せ、赤ちゃんの鳴きまね)は?(両手のひらを…)
仕事(スコップで穴を掘るまね)は?(両手のひらを…)
お腹の痛いポルトガル人、頭の周りに“?”が100個くらい浮いてます。
「そんなんじゃ通じねぇよ」って言った研修医に選手交代。
やっぱり通じず。紙に書かせても意味不明。まず第一に読めない。
結局は古参の医療事務員さんが倉庫の奥から埃を被った外国人患者対応マニュアルを見つけ出して何とかなりました。

情報収集している時はみんな必死でしたが、あとから冷静になるといい年した複数の大人が一人の外国人の周りで皆で何回も両手のひらを上に向けて肩をすくめるポーズをしているのは異様としか言いようがありません。アホの集団です。ただこの時からアホ同志で連帯感が芽生え、暫くは救命センターでこのポーズが流行しました。僕もその中の一人です。


(2008年01月24日)

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