平成16年より国家試験に合格した医師は最初の2年間、複数の科を研修する事が厚生労働省より取り決められました。
例えば外科を志望した人間の場合は、就任直後より本来の医局のみに専従するのではなく、他の科(内科や放射線科など)を研修しなくてはならないのです。またこの間は上級指導医の指示なくして単独での診療ができず、当直などのアルバイトもできません。
このスーパーローテイト制度、現場では非常に不評です。
せっかく医者になったのに、やっと慣れてきたと思ったら次の科に移動しなくてはならず、診療科としてはなかなか戦力にならない。指導医としては常に教え続けなくてはならず負担が減らない。本来の科ではない為研修にやってきた研修医も本腰が入らず教え甲斐が無い。専門医に成る為の経験や症例を稼げない。などネットの掲示板には書かれ放題です。
自分は94年に国家試験に合格し、脳神経外科に入局しましたが既に東海大学はスーパーローテイト制度を導入しており、自分の医者修行は脳外ではなく麻酔科から始まりました。その後も整形外科、小児外科、放射線診療科、救命センター、地域医療と3ヶ月ずつ研修し、卒後3年目でようやく「脳神経外科」と印刷された名札を手に入れたのです。
このスーパーローテイト制度、自分としては「やってよかった」と思っています。専門分野のみに囚われることなく関連した周辺の知識や経験を身につける事ができ、更にはあらゆる科のDr.と友達になる事ができました。単に仲良くなるだけでなくそのネットワークを広め、治療のコツや要領を得た診療依頼を出すツボを伝授してもらえるのです。
まだペーペーの新人の頃、バイトで外病院の当直をしていた時の事です。看護婦さんが患者さんからの診療依頼の電話を受けていました。聞き耳を立てていると喘息の患者さんだけど、今日の当直は脳外科の先生だから診れません、と断ろうとしています。
「ちょっと待った~! 診れるよ、俺。」
「え~~~! だって先生、脳外科でしょ!?」
「脳外科だけど診れるの! それより喘息の患者さん断んないで!」
喘息と言うものをなめちゃいけません。最初は小さな発作でも重積すると死につながります。こまめに聴診して、点滴しながら吸入を行い程なくして症状が改善して患者さんは帰宅しました。
救急の経験と呼吸器内科の友達に聞いていた知識が役立ちました。
そろそろ寝ようかな、と思っていた矢先にまた違う患者さんからの診療依頼が来ました。どうやら転んで肩を脱臼したようです。
「今日は当直が脳外の先生なので…」
「ちょっと待った~! 脱臼診れるよ、俺。」
「え~~~! だって先生、脳外科でしょ!」
「脳外科だけど診れるの! 患者さん来るように言って!」
脱臼は時間がたつと筋肉が硬直して戻りづらくなります。診察上、骨折は無い様子。脱臼した方の腕に錘を括り付けて脱力した状態でぶら下げているうちにポコン!と戻りました。湿布と痛み止めと三角巾、そして翌朝早めに整形外科を受診するよう指導して紹介状とともにお帰り頂きました。
ここでは救急と整形外科の経験が役立ったのです。
「先生、何でも診れるのねぇ。ところで妊婦さんがお腹が張ってるって言う電話が来てるんだけど受けて良い?」
「そっち系はダメ。専門機関を受けるように指導してください。」
いくらなんでも全ての科を網羅している訳ではありません。最初から経験の無いものはお断りさせていただく。できそうだと思ったら診る。実際に見て困難だと思ったら適切な処置をした上で直ぐに専門機関に依頼する。ただそれだけの事です。何よりも患者さんが断られて、また始めから病院を探す手間が省けるではありませんか。
この経験は美容形成外科医を標榜している今も思わぬところで役立っています。
医学を発展させる上で専門家を育成するのは大事だと思います。ただ、その前に一人の医者であるのも事実。専門外であってもある程度は診療できるに越した事はありません。指導医の先生方が大変なのは解りますが、いずれは彼らが指導医となって後輩を導いてくれるはずです。目先に拘らないで長い目で未来ある新人を指導していただきたいと思います。科は違っても同じ医者なんですから。
このブログ記事を参照しているブログ一覧: スーパーローテイト制度
このブログ記事に対するトラックバックURL: http://spiritlink.80code.com/cgi-bin/mt/mt-tb.cgi/976
コメントする