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酒の一滴は血の一滴

にくまん

とうとう本格的な雪のシーズンとなりました。
毎年この頃になると思い出す事があります。

99年に脳外科から形成外科に転身し札幌に帰ってきたわけですが、自分の中での本当の狙いは家族、それも娘と一緒に過ごす時間を確保する事でした。週の大半の晩御飯を一緒に食べて、休みの日には公園に行ったり買い物に行ったりする事に何よりも幸せを感じていました。

ただ、彼女が生まれてから約10ヶ月、それまで殆んど家に帰ることがなかった自分は当時の彼女にとって父親ではなく顔を見たことがあるオジサンに過ぎなかったのです。
家族3人でいるときには一緒に遊んでくれるのですが、自分と二人だけでお風呂に入ろうと浴室のドアを閉めた瞬間に「ママ!ママァ!」と泣き叫ぶのです。もうね、自分は虐待をする親かと、誘拐犯かと。

子供と過ごす事を目的に決断したトラバーユでしたが、現実はそんなに甘いものでは無い事を叩きつけられる日々でした。

そんなこんなで関係を築く事のできないまま月日は流れ、その年の冬、自分達は医局人事の都合で北見にいました。記録的な大雪で一晩に70cmの積雪。出勤するにも除雪が間に合わず腰近い雪をラッセル車のように漕いで歩くような日が続きました。そんな中でのある休日、当時妊娠中のカミサンから買い物を頼まれました。
たしか醤油とか、味りんとか、そんな簡単なものだったと思います。
まだ日が明るいから二人で行って来て、と。
その瞬間、彼女が緊張したのがわかりました。
「え、このおじさんと二人だけで行くの?」みたいな気まずい空気。
こっちも気が付いちゃったから、無理にも誘えない。
「いや、雪降ってるから俺一人で行ってくるよ。」
「○○ちゃん、パパと一緒に行っておいで。」
「は~い(沈んだ暗い声)」
「じゃ、一緒に行こうか!(つとめて明るい声)」

ガッツリ着込んで出かけます。雪が積もって足元が不安定なので手を繋ぎますが、向こうの繋ぐ手の力が弱い。

『ハァ、いつになったら親子になれるかなぁ…』
なんて心の中で思いながら、表面上は楽しそうに歌なんか歌ってみます。

「なっぞっの、にんじんせ~じん、なっぞっの、なすせ~じん♪
 なっぞっの、はくさいせ~じん、しんじゅく3ちょめ~にあらわる~」

傍から見たら幸せそうな親子に見えることでしょう。
ただコッチは必死です。何とか店まで間を持たせなくちゃいけない。
買い物が済んで、レジのところに肉まんが売られていました。
「肉まん食べる?」
「…(コクリ)」
「ママには内緒な!」
「…(コクリ)」
一つの肉まんを半分に割って、二人で食べながら帰路に着きます。
食べてるもんだから歌を歌うこともできず、二人で黙々と歩きます。
雪が降っていて、聞こえるのは二人の雪を踏むギュッ、ギュッという音のみ。なんだか無性に悲しくなってきて泣きそうになってきた時、急に彼女の繋ぐ手に力が入りました。
彼女の方を見るとにっこり笑いながら僕の顔を見上げ、
「ぱぱ、にくまん、おいしいね。」と話しかけてきました。
「うん、おいしいね」と応えるのが精一杯。涙と鼻水が止まりません。

やっと親子を実感できたのは、トラバーユして8ヶ月後のことでした。


(2007年12月06日)

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