医者になって直ぐの頃、自分は脳神経外科の医局に籍を置いておりました。
もう忙しいのなんのって、家に帰るどころか寝る時間さえも確保するのが困難なのは日常茶飯事。エレベーターで1階から6階に上がるまでに一眠り。ちゃんと夢も見る。上司からイラストの仕事頼まれたけど、じっくり絵なんか描いてる時間が無い。せっつかれる言葉に「先生、惜しむ寝る間がありません!」って応えたらあっさり納得してくれました。夕ご飯に出前を取るも届く前に救急センターから急患の連絡が来て、蘇生室経由でそのまま手術室へ直行。終わったのは明け方で出前に頼んだ鍋焼きうどんはすっかりスープを吸い上げ、ひんやりとしてテーブルの上に置きざらし。お腹もすいているけど、ここで食べちゃうと30分は睡眠時間が削られるし、朝のカンファレンスに起きれるかな。ええいっ!寝ちゃおう!てな感じでその日は晩御飯抜き。髪はボサボサ、眼の下にはクマ、ヒゲも綺麗に剃れてない。
患者さんの家族に現在の病状を説明する時、逆に「先生、大丈夫?」なんて聞かれちゃう。
そんな時、どんなに眠くても、どんなに疲れていても、どんなにお腹がすいていても
「全然大丈夫ッすよ!」「あ、もう、全っ然平気ですから」と応えるのが自分達の中で勝手に決め付けたカッコイイ医者でした。
そんな中、ある男の子が交通事故で運び込まれてきました。
目立った外傷は無いものの、CTでは脳に小さな血腫あり。脈拍・血圧は落ち着いていますが意識が戻りません。果たして意識は戻るのか、意識が戻ったとして麻痺が出たりしないか、通常の日常生活に戻る事ができるか、誰もわかりません。ICUのベッドを確保し治療計画を立てます。とにかく起こり得るあらゆる事態を想定して先手を打てるようにチームで確認を取り合います。で、ご家族への説明。やはりシビアな物となります。
「現在、状態は安定していますが今後いつ急変するかわかりません。頭の中の出血ですが今のところ手術を必要とはしていないものの、今後出血量が増えると緊急手術となる事もあります。意識がどこまで回復するか、麻痺などが出ないか、全く予想がつかない状況です。○○君が最良の結果に辿り着けるよう最善を尽くします。」
もう両親揃って顔面蒼白。おばあちゃん号泣。妹爆睡中。何か自分達が悪者になった様な気分になってしまいますが仕方が無い。やれる事をやるだけだ!
さて、泊り込み開始!とにかく子どもはいつ急変するか解らない。可能な限り彼のベッドにベタ付きします。夜もベッドの下に潜り込んで仮眠。通りがかりに顔を見に行って、話し掛けて、手を握る。優しく優しく刺激して目を開けるのを待つ。
泊り込みが始まって1週間たった頃、事件は起きました。
(つづく)
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