ある休日の昼下がり、自宅リビング内での自分と長女キャサリン(10歳、仮名)の会話。
「ねぇ、パパのお仕事って患者さんに手術したり注射したりするんでしょ。」
「うん、そうだね。」
「患者さん、痛がるでしょ。」
「うん、可哀そうだけど仕方ないよね。」
「パパ、患者さんに嫌われてない?」
「どうして?」
「あたしだったら痛いことする人嫌いだな」
「うん、パパも痛いのは嫌いだ。」
「じゃぁ、どおして痛い事するの?」
「必要だから。」
「嫌われても?」
「嫌われても。」
「パパ可哀そうじゃん。」
「何で?」
「あたしは友達から嫌われると悲しい。」
「パパはそんなに嫌われてないと思う。」
「うそ!」
「嘘じゃない、と思う。」
「何で?」
「だって、患者さんは帰る時に『ありがとう』って言ってくれるもん。」
「どうして痛い事されてるのに『ありがとう』って言うの?」
「それが必要な事だからって解ってくれたからじゃないかな。」
「よくわかんない。」
「例えばさ、キャサリンがジャンプする時に高く飛ぶためにはどうする?」
「思いっきりしゃがむ。」
「だよね。より高い所に手を届かせるためには一回低くなるよね。」
「うん。」
「それと同じ。」
「?」
「自分がさ、今よりももっと綺麗になりたいとか、怪我とかして悪くなったところを元に戻そうとするためには一回しゃがむ事が必要なんだよ。それが痛いのを我慢するって言う事。」
「う~ん、解るような、解らないような...。」
「それとね、もうひとつパパには秘密兵器がある。」
「秘密兵器?」
「魔法。」
「魔法なんか無いよ。」
「まぁね、けどチョッとしたことで魔法ってかかっちゃうんだな。」
「何それ?」
「それは、時間をかけて説明するって言う事。」
「魔法じゃないじゃん!」
「魔法さ!」
「ただ喋るだけじゃん!」
「それが一番大切なこと。」
「そんなの治療じゃないよ!」
「キャサリンさ、『メリーポピンズ』って映画覚えてる?」
「うん、あの映画好き。」
「あの映画の中で『スプーン一杯の砂糖』って歌あったの覚えてるかな。」
「あったような気がする。」
The medicine go down medicine go down
Just a spoonful of sugar helps the medicine go down
In a most delightful way
A robin feathering his nest
Has very little time to rest
While gathering his bits of twine and twig
Though quite intent in his pursuit
He has a merry tune to toot
He knows a song will move the job along - for♪
(Disney's 100 year 100 songsより)
「覚えてるよ、お砂糖と一緒なら苦いお薬も飲めるってやつだよね。」
「そうそう、どんなに大変なお仕事でも楽しい事は必ずある。ムクドリもほとんど休まないで巣を作り続けるけど、歌いながらなら辛くない、っていうやつ」
「あの歌、2番目に好き。」
「あの映画はパパの心の応援歌。」
「応援歌?」
「患者さんはさ、パパの病院に来る時はみんな不安なんだよ。
痛い事をされるんじゃないか、
怒られるんじゃないかってね。」
「キャサリンも病院はあんまり好きじゃない。」
「みんなそうさ。
でさ、やっぱり痛い事されちゃうわけだ。
その時にね、優しく、解りやすく、時間をかけて説明してあげる事で
少しはその不安とか怖い気持ちが軽くなると思うんだ。」
「そうかなぁ。」
「パパだったらそう思う。
だから手術とか注射する前に『時間』って言う名前のスプーン一杯のお砂糖を患者さんに分けてあげるの。
そうすれば、痛い注射もへっちゃらになるって言うわけ。」
「結局、パパって何屋さん?」
「ま、言うなれば美容医療業界のお砂糖屋さんってとこかな。」
「カッコつけても意味ないんですけど...。」
「相変わらず厳しいね、キミ。」
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