スーパーローテイトの2年が明け、後期レジデントとして本格的な脳外科修行が始まりました。
くも膜下出血などを扱う「血管チーム」
脳腫瘍を扱う「腫瘍チーム」
交通事故などに対処する「外傷チーム」
そして「小児チーム」
何を迷う事がありましょうか。
もちろん小児チームを選びましたよ。
とは言っても、子供だけを扱うのではなく 脳外科疾患に対し全般的に対処できるように担当患者は受け持つので、子供だけ見てりゃいいってモンではありません。
「小児チーム」、あんまり人気のあるチームではありませんでしたが、その分優先的にいっぱい担当させてもらいました。
多くは脳腫瘍なのですが、先天奇形や交通事故、そして被虐待児。
実は被虐待児、現代社会において決して稀有な症例ではありません。
当初は"机から落ちた"とか、"道で転んだ"なんて言っているけど、どうも体の傷が多すぎる。それも不自然な。
なぜ風呂場で転んで背中に火傷ができるのか。
なぜ机から落ちただけで体中にアザができるのか。
明らかに同世代の子供と比べて体重が軽い。
本来なら一度帰して翌日外来を再診ってケースも、とりあえず入院させて様子を見ます。
通常であれば、「入院」という言葉を聞いただけで保護者は動揺を隠せなくなりますが、なぜかこの場合は入院に反対しません。
むしろ安心したような顔つき。
で、お見舞いにも来ない。
来ないだけならまだ良い。
中には久々にお見舞いに来たと思ったら、看護婦の見えないところで繋がっている点滴の管を指でつぶして薬を止めようとする人も。
他のベッドの子供たちは縫いぐるみや玩具で埋め尽くされているのにその子のベッドは空っぽ。
はいはい、行きましたよ。
研修医つれてゲーセンに。
それもUFOキャッチャーを得意としてるヤツ。
本当はいけないんだけど、婦長には「病棟への寄付」って名目でその子のベッドに入れちゃう。
けどね、虐待された子って、遊び方知らないみたい。
縫いぐるみ見ても、ジ~っと見てるだけ。
触らないし抱きもしない。
ただ見てる。
喜んでいるのかさえも不明。
で、主治医はそのお人形持って話しかける訳だ。
「やぁ!スティーブ(仮名)君!元気かい? 僕はオモチャの国からやってきた鳥羽一郎だよ!こっちは北島三郎だ! よろしくね!」
思いっきり裏声、ハイテンション。
これを30前後の男が2人とかでやってる。
気持ち悪いよねぇ。変だよねぇ。
治療行為とは全く繋がっていないけど 、やっている本人達は徹夜明けだったりで結構楽しい。
最初は呆れ顔の看護婦さんたちも、そのうち笑い出す。
だんだん笑いの輪が大きくなる。
つられてその子もチョット笑う。
大成功!
やっぱり子供は笑ってなくちゃね。可愛いもの。
だんだん慣れてくると、最初から笑っている様になる。
そうなってくると、ある感情が沸いてくる。
「退院させたくないなぁ...」
相変らず面会に来ない両親。
病状説明で来院させた時のあからさまに不機嫌な態度。
話しを聞いているのかさえも不明。
退院の方向に対して消極的っていうか、むしろ拒否に近い発言。
それでいて、入院治療費の支払いには難色を示す。
おいおい、病院を無料の託児所と勘違いしていませんか?
退院させても、また入院するような事になっちゃうんじゃないのかなぁ。
けど、治療は一通り終了しているから、これ以上入院させておくわけには病院的に無理なんだよなぁ。
ただね、誰が見ても不機嫌そうな母親の顔を見て、その子が笑うの。嬉しそうに。
だったら、やっぱり退院させるしかないよね。
で、しばらくすると、また入院してくる。
予感的中。
医学が無力であることを思い知らされる瞬間。
彼らにとって、医者は単なる「修理屋」にすぎないのか。
治療が必要なのは、子供か、親か。
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悲しいですね。
また入院してくるならいいけれど、
亡くなってしまったら取り返しがつかないと思うと
退院させたくない気持ちに共感します。
明らかな虐待と思われる傷がある場合、
警察や児童福祉施設に通報する権限って、
お医者さんにはないのでしょうか?
それとも親を通報することを、子どもは望まないのかなぁ…
考えさせらる話です、
武藤さんは、さらっと書いていらっしゃいますが。
医療の現場では、ここに書かれていることが、
特別なことではないのですね。
被虐待児を救うのは、やっぱり、
親か、本人自身しかないのでしょうか?
現代社会の、もっとも難しい問題ですね。