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酒の一滴は血の一滴

エゴ(2)

自分とM先生の二人で手術に入ります。
ただ、今までの経験上、ここまでテンションの上がらない手術もありませんでした。だって、手術しても助からないんですもの。
自分で出した結論とはいえ、「本当に良かったんだろうか?」と言う疑問を払拭しきれないまま手術は始まりました。
手術自体は特にトラブルも無く1時間程度で終了し、ICUに入ります。
術後のCTでは小脳の中の血の塊は綺麗に排除され、圧迫されていた脳幹部も正常の位置に戻っています。しかし脳死状態は変わりません。

家族に説明し、人工呼吸器の設定や点滴、血液検査、血糖チェック、血圧や心拍数変動時の対応、Dr.call基準を全て指示書上に記載します。
勿論1st callは自分です。とにかく何かあったら自分を呼んでくれ、と。
M先生を自分より先に呼ぶんじゃねぇぞ、と。看護婦達も充分に理解し気合も入っていました。何ていっても手術を勧めた張本人なのですから。

脳死状態に陥った患者さんは何が起きるかわかりません。突然心拍数が200を越したと思ったら、次の瞬間には30代まで下がります。血圧が測れなくなったと思ったら、次の瞬間には通常の状態に戻っていたりするのです。“脳”というメインコンピューターが機能していないわけですから身体も暴走を始めるのです。

案の定、ICUにいた1週間の間に何回も心臓が止まりました。何の前触れも無くいきなり心停止します。その度ごとにポケベルで呼び出され心臓マッサージやカウンターショックです。家になんか恐ろしくて帰れません。1分1秒を争う訳ですから、一番手っ取り早いのはICUで寝ることでした。

ただこの頃になると、自分の判断にどんどん自信がもてなくなってきます。「彼女はもう死にたがっているんじゃないだろうか」「無理に心臓を動かし続ける事に何の意味があるのか」「彼女はエゴの犠牲者じゃないのだろうか」「生き死にを自分らが決める権利があるのか」
最初の頃の熱い気持ちは、ICUを退室する頃にはかなり萎んでいました。

しかし、一般病棟に移った時、自分の不安は一気にかき消されたのです。


(2007年10月25日)

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