145センチだそうです。朝倉かすみさん。
自称「日本一小さな小説家」
2003年11月6日の北海道新聞には
「小樽市生まれ。札幌で故三遊亭円生の高座を聞いて感動し、道武蔵女子短大では落語研究会に。」
と紹介されています。
実は小生の友人に朝倉さんの同窓がいまして、落研時代の活躍等についても少々聞いています。教育文化会館小ホールで催された卒業高座では、「ガラスのコップで牛乳を飲んだ時、その内側に残る丸い輪じみがどうにも気に入らない噺」を枕に、随分会場を沸かせたそうです。
友人の記憶では...
朝倉さんは、ちんまり座った座布団からお尻を浮かせて、いちいち前かがみになってはマイクに「オチ」をきめていたとかで...。
小柄な姿が目に浮かびます。
この小柄な体型(ご本人曰く「ちび」)というのが、実は朝倉作品に少なからぬ影響を与えているのではないか、と小生は考えています。
ヘンな言い方かもしれませんが、どんな登場人物を描写するのにも朝倉かすみは「下から目線」なのです。
「下から目線」とは、相手を見下さない視線、です。
薄情な人物、軽薄な人物にすら、筆を尽くすのです。
こんな人物...と、先入観が邪魔をする登場人物ほど、朝倉作品では詳細に「読まれる機会」を与えられている気がします。
たとえば...『ロコモーション』のヒロイン、首藤アカリです。
地味な性格とは裏はらに、「むんむんちゃん」などと呼ばれてしまうような体躯の持ち主です。女性からは軽蔑されやすく、男性からは下種な視線を集めやすい...。
しかし朝倉かすみという小説家はずっと寄り添い続けるのです。
このヒロインの抱える空ろに...。
トイレ掃除がおざなりになっていたとして、汚れが落ちない小水のしみを素手で落とそうとするような主人公です。
自らの手を汚しても、便器がきれいになる方を選ぶというのは、何だか小生には生きていくためのバランスを決定的に欠いている人物のように思えます。
そんな、【共感】よりも【驚き】の方が勝る問題ありの重たい女性を、朝倉さんは主人公に据えるのです。
万人に喝采を浴び、好評をはくした『田村はまだか』のその直後にです。
書くに値しない人間などいない。
朝倉さんは、そう云いたいのかもしれません。
イタ過ぎて、なかなか【共感】できない主人公らに向き合うたびに、小生はその確信を深めつつあります。
とはいえ、朝倉作品には、むろん素直に【共感】できる主人公だっています。
七つ年下の恋人を追って、東京から稚内まで来てしまった真穂子さんのこの独白には、ホロリときます。
<虫眼鏡で日ざしをあつめ、黒紙を焦がしたみたいだよ、御堂くん。焼かれる黒紙の気持ちがきみにわかるかね。ちっさい穴があくんだよ。その前に薄いけむりが立つんだよ。けむりが目にしみるってやつだよ、御堂くん。>
『肝、焼ける』より
また、四十八歳の胃弱な山崎さんと、四十五歳のふうちゃん(初婚)のやりとりも...ほろにがくて、でもなんだかいいです...。
<お酒が入ると、モテた話もした。過去の栄光は獲れたてのニシンのうろこみたいに輝いている。しつこくされただの泣かれただの、ふたりともたいへんなモテっぷりをなんでもなさそうに白状し合った。>
「やっこさんがいっぱい」→『静かにしなさい、でないと』(集英社)収録より引用
【共感】と、えっ?!という【驚き】と...朝倉さんの小説には両方あるのです。
今週末、そんな朝倉さんが講師のお一人となる『三つの読書』と題されたトークショーが、札幌市中央図書館で開催されます。
朝倉さんが小説の『外』で何を語るのか、とても興味があります。
また、前述の『ロコモーション』(光文社)が、Amazonで
「公衆便所の落書きで感動出来る人なら読むのもいいかもしれない」等とえげつないレヴュアーに評された時、
「批判は返り血を浴びる覚悟があって初めて成立するんです」と、鋭く反撃した書評家豊﨑由美さんのお話もぜひ聴いてみたい。(豊﨑さんも講師のお一人です。因みにもう一人の講師は『yom yom』編集長の木村由花さん)
書評家といえば、豊﨑さんと並ぶ毒舌家(?)斎藤美奈子さんが、かつて『肝、焼ける』の書評でこんなことを書いています。
文芸予報というページです。
<この作家を敬遠する男性は、しかし、かなり「つまんない男」だな。>2005年12月30日号『週刊朝日』より
これは『肝、焼ける』が小説現代新人賞を受賞した際の、山田詠美さんの今ではあまりに有名な選評「この作者は、ある種の男性から敬遠され、ある種の女性から熱烈に愛される小説を書いていく人だと思う」
にからむものなのですが...
いまのところ小生、
「つまんない男」免れています。
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●『三つの読書』トークショー(札幌市中央図書館開催)については、こちらをご参照ください。
http://www.city.sapporo.jp/tosyokan/ht/oshirase.html#mojikanren
●朝倉かすみ受賞歴
2003年 北海道新聞文学賞「コマドリさんのこと」→『肝、焼ける』に収録
2004年 小説現代新人賞
『肝、焼ける』(講談社)
2008年 吉川英治文学新人賞『田村はまだか』(光文社)
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