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第24回 沢則行のかなしみを受けとる

滝川で、人形劇を観てきました。フィギュア・シアターとかフィギュア・
アート・シアターと呼ばれる人形演劇です。
作・演出・美術はチェコ在住の人形劇師沢則行(さわ、のりゆき)さん。
出し物は『かぐや』と『小作品集』。
小生、昨年もやまびこ座で観ているのですが、沢則行はブラボーです!!

今回も、小生が感嘆したのはやっぱり『かぐや』。
日本最古の作り話、『竹取物語』をベースに創られたこの物語のあらすじ
は、もはや説明するまでもないでしょう。平安時代からいまに伝わる作者
不詳の物語、通称『かぐや姫』です。

『かぐや』に使われる人形は、かぐや姫一体きりです。
彼女は薄ものの儚げな着物を着ています。動かすのは舞台上にいる沢さん
(黒衣)一人です。文楽の舞台とは違って、人形の足もとを隠す手摺など
はなく、動かすところもぜんぶ見せます。沢さん、時には顔も見せます。
求婚者の仮面(狂言面にも似た...)をかぶることもあります。
台詞はありません。無言劇です。

初めて観たときも今回も、小生はかぐや姫のまとう衣装の美しさにハッと
させられました。美しく、どこかかなしい風合いなのです。
かぐや姫のどんな所作にもこのかなしみがまとわりついてくるようで、袂
や裾の揺れからも目が離せず、食い入るように見ました。
所作は、風情と言い換えてもいいでしょう。
幻想的な明りに照らし出される、かぐや姫と沢さんのかなしい風情―。
かなしいという表記には、「愛しい」という字も当てるんだよなぁなどと
ふと思い、いつしか小生に、沢さんは見えなくなります。
そこに居ますが、居ないのです。
最後はやるかたなく、月に帰るかぐや姫を翁のように見つめていました。
言葉にできない漠とした感情が湧き上がり、胸の裡に、さまざまな波紋が
拡がっていきました。切なかった―。

それが、小生の観た沢則行のフィギュアート・シアター『かぐや』です。

昨年6月、NHKみんなのうたで放映された椎名林檎さんの「二人ぼっち
時間」の人形劇も、この沢さんが担当したものです。

前後して発行された『表現する仕事がしたい!』(岩波ジュニア新書刊)
には、「変わった人形劇,あります」という沢さんの文章も紹介されてい
ます。これがとても、興味深い―。

沢さんは小樽出身の道産子です。20年ほど前、東京でのハード・ワーク
がたたって実家で静養されていた折りには、札幌にあるミッション系の私
立学校で美術の先生をしていたこともあります。同じ頃、系列校で働いて
いた小生も、会議の席では何度か顔を合わせました。
颯爽とバイクに乗って来られて、「人形劇をやっています」と歯切れよく
自己紹介された姿は鮮烈でした。(女子生徒に、モテモテだったと聴いて
います。うらやましい限り!)

また、亡くなられたお母さんは、和服を仕立てるお仕事をされていたそう
です。沢さんが創る人形の多くは、彼女が残した布地から仕立てた着物を
着ているのだとか―。(コラナビインタビューでも紹介されたロケット
姉妹の扇柳トールさんも、音楽の仕事をされた折に、ご本人から直接この
話を聞いたと云います。)

何て美しい供養だろうと思います。沢さん、本にはこう書かれています。

  僕の手元には、彼女が仕立てた和服がごっそり残されました。そして 記憶には、布の色と匂いが染みこんでいます。世界で仕事をすると、 「オマエの持っている<日本>を表現しろ」と、よく言われます。僕 の中に<日本>があるとすれば、たぶんあの色と匂いです。

『竹取物語』では嘆き悲しむおじいさん、おばあさんへ、かぐや姫が着て
いた着物を形見として残します。そして月夜には思い出してほしいと手紙
にしたためます。せめてもと、モノに思いを託すのですね。

今、小生は、沢さんが託したかった着物の色や匂いについて想像していま
す。『かぐや』を子どもだけのものにしておくのはもったいない。
何でもかんでも「かわいい」という一言でかたづけているのは、実は大人
の方かもしれない。言葉で括ろうとすればするほど遠のいてしまう感情の
わけても「かなしみ」を、まだ、小生、静かに味わっています。

http://norisawa.net/


(2010年04月01日)

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