『二月十四日』という詩集を手に入れました。
書店では、売っていません。Amazonでも買えません。石川県金沢市にある
龜鳴屋(かめなくや)という発行もとに申し込んで送ってもらうのです。
届いた詩集の終わりには、83とナンバリングがしてありました。
小生、83番目の購読者というわけです。
作者は金子彰子(かねこ、しょうこ)さん。
表題にもなっている「二月十四日」は、あるチョコレート会社に応募した
懸賞詩で、特別賞を受賞しています。出だしでもうガツンときます。
いわし焼く夕方
「焼き方が足りんぞ」
その一言に堰がきれ
とめどなく嗚咽漏らす
涙の中をいわしが泳ぐ
誰もが覚えある心もとない夕方...。いわしを焼く匂い...。どうでしょう?
ほかならぬ甘いチョコレートを売る会社に、いわし焼くで始まる...それも
「二月十四日」と冠した詩を応募するこの感性―。なんと十五歳の時の詩
なんだそうです(!)少女の胸いっぱいのやるせない思いがあふれた夕餉
に立ち会ってしまったようで、小生、そうっとページを繰りながら、一人
ドキドキしてしまいました。
金子さんはこの詩が認められて、雑誌『鳩よ!』等に作品を発表するよう
になるのですが...龜鳴屋から届いた『二月十四日』のあとがきには、こう
あります。
...学校を卒業してみれば長い長い就職氷河期が待ち受けていた。
それでもなんとか職を得て、世間を泳ぎ渡っていくうち、頭でっかち
で腸の苦い鰯のようなこの身は、糊口を凌ぐことに懸命になるあまりにいつしか詩を忘れて生きてきてしまった。
一度は詩作から遠のいてしまった金子さんが、この詩集を成就するまでの
顛末は、ご自身のブログ「kanecoの日記」で伺い知ることができます。
金子さんには、Twitterで出会いました。
小生が実行委員をしている映画、『海炭市叙景』に関する呟きを彼女が拾
い、再度話題にしてくださったのがご縁です。どんな方かとプロフィール
を見ると詩集を出されたことが解り、ツィートに貼りつけられたリンク先
へうまく飛べなかったことを小生が指摘したところ、携帯からでは不備が
あるので削除しましたと返信をいただき、ならばと小生がリンクを貼りな
おしたのです。ついこの間までは小生もパソコンを所持しておらず、金子
さんと同じ歯痒い思いをしていたので、余計に親近感が湧きました。
その後は、金子さんの呟くことばにどんどん心惹かれていくこととなり、
詩集『二月十四日』を手にするに到ったのです。
実は十五歳の金子さんが応募した「二月十四日」を審査し世に出した詩人
の井坂洋子さんも、「書かないのはもったいない」と再びの詩作を促した
古本書評家の岡崎武志さんも山本善行さんも、映画『海炭市叙景』の実現
のために応援してくださった方々でした。これは偶然?それとも必然?
慌てて岡崎さんのブログ「okatakeの日記」を読み返すと、金子彰子という
稀有な詩人を埋もれさせまいと彼らが支援されてきた足跡がわかり、小生
も何だかその繋がりに加われたようで、勝手に胸が熱くなりました。
そして、Twitterで始まったこの物語には、まだ続きがあります。
先日、映画『海炭市叙景』が無事にクランクアップをし、いよいよ小生は
実行委員になった本来の目的、原作者佐藤泰志の絶版作品の文庫化に動き
出しました。芥川賞候補作が五つ(うち一作は三島由紀夫賞候補にも)と
いう彼の小説が忘れられていく嘆きを金子さんに伝えたところ、自分宛て
でなく、全体に向けて呟くべきだとのアドヴァイスを受けました。
そうして小生が発信しなおしたところ、金子さんはもちろん『本の雑誌』
への寄稿でも知られる東川端参丁目さん、青木るえかさんほか、書評家の
豊崎由美さん、作家の朝倉かすみさんなど大勢の方々がリツィートをして
くださり、佐藤泰志の後輩だという編集者さんにまで繋がったのです!
『二月十四日』のあとがきは、こう結ばれています。
この詩集を応援いただいた皆さんと、全ての働く人に捧げたい。
一度は詩を忘れて生きてきた少女がその手にまた詩を取り戻したように、
いくつもの職業に就きながら小説を書き続けた佐藤泰志のこころざしを、
小生は見知らぬ誰かへと手渡し、もう一度分かち合いたいと願うのです。
というわけで、さまざまな人たちと魅力的に繋がりながら、小説『海炭市
叙景』及び佐藤泰志作品文庫化への道は、まだこれからも続きます。
※金子彰子さんのブログ「kanecoの日記」
※岡田武志さんブログ「okatakeの日記」
このブログ記事を参照しているブログ一覧: 第23回 詩集『二月十四日』と小説『海炭市叙景』
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