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図書館司書ケイトのであってしまったんだ備忘録

第15回 あまりてなどか人の恋しき に思う

今冬、子どもたちの自由研究のテーマは、百人一首が人気でした。
小生、疎くて知りませんでしたが、火つけ役は漫画だそうで―。

『ちはやふる』末次由紀/作 講談社刊。
昨年のマンガ大賞の受賞作なんですね。遅ればせながら小生も読んでみま
した。競技かるたの頂点を目指す、高校生の群像劇なんですが...。いやあ
小生、久しぶりにわくわくドキドキする漫画にであってしまいました。

子どもの頃の小生―
お正月のお愉しみといえば、何といっても百人一首かるただったのです。
小生だけではありません。親戚一同が集まってお年玉を配り、ごちそうを
食べた頃合いで、みんながそわそわしだすのです。
そろそろやりますか―、と誰かが口にすると、それがかるたの死闘(?)
の始まりです。
まずは、実力が偏らないようなチーム分けをします。大人は大人、子ども
は子どもで二チームずつ。双方とも敵・味方に分かれたら、各陣営は札を
三段に並べます。
下の句のみが毛書のくずし字で描かれた木の札です。かろうじて拾い読み
できるひらがな―「あまの」「あしの」「うしと」「さしも」等の札は、
小さい子の前に置かれました。とはいえわが一族、百人一首に限っては、
手加減など一切せず、取れる札なら容赦なく誰がとってもいいお約束。
向かい合う相手の実力はいつも拮抗するよう組まれていましたから、敵陣
に得意な歌があれば密かにチェックし、奪いとる気満々で狙っていました
っけ...。
読み手は祖父でした。ふすまを外した二部屋(一方は大人対戦、もう一方
は子ども対戦)の真ん中に座り、まずは「からふだ一丁」と断りを入れて
一首読みあげます。そしてその歌の下の句をもう一度ろうろうと読みあげ
ると、次の札の下の句をまた読みあげるのです。

そうです。小生が夢中になったのは、下の句を読んで下の句をとる、俗に
【下の句かるた】と呼ばれる北海道地域限定の小倉百人一首かるただった
のです。下の句ばかりが連綿と読まれるのですから、意味などは関係あり
ません。耳を澄まして瞬発力と反射神経でとる―。北海道式かるたとは、
スポーツでした。おまけに紙でなく木札ですから、激しくぶつかってよく
爪が割れました。まさしく畳の上の格闘技だったわけです。
負けず嫌いでしたから「トランプでもしてなさい」とギャラリー席を指定
されるのには我慢がならず、必死で文字を憶えた小生です。
同年代のいとこの中でいち早く、大人チームに入ったときの嬉しさは忘れ
られません。絶対に手加減をしない大人たちに混じって挑む、かるた遊び
のなんとスリリングで、おもしろかったことか!
そんな小生の得意札、実は、身もだえするような切ない歌なのでした。

浅茅生の小野の篠原しのぶれど あまりてなどか人の恋しき

作者は参議等(さんぎひとし)。あなたをひそかに思ってきたけれども、
忍ぶことも今はもう限界なのだと吐露する恋歌なのですが、小学生だった
小生にそんな心情、解るはずもありません。
「あまりて」という仮名を目の端に捕らえたら反射的に手が出たのです。
反発ばかりしていた父の真正面から奪い取った、初めての一枚でした。
だから意地になって死守するうちに、得意札になったともいえます。

先日は、過保護が頭のいい子を作る―と煽るテレビ番組を見ました。
冬休みの自由研究にと「百人一首」を所望した子らも、思えば小生と話を
したのは親の方でした。要望を小生に伝えるのも質問に応えるのも、子の
横に立つ親なのです。わが子に足りない言葉を補填するためでしょうか?
そういや最近では大学生の課題の資料までも、親が探しにやってきます。

小生の幼時期の大人たちは違いました。手とり足とり勉強の面倒を見ては
くれませんでしたが、先のように真剣な勝負は何度もしてくれました。
いつまでもかるたの子どもチームにいることに、小生は屈辱を感じました
が、あの頃の子どもたちはみな、早く大人になりたくて仕方がなかったと
思います。勝負に負け続けるのは悔しかったけれど、大人が子どもと対等
に向き合っている感じは、悪くなかった。だから小生は、たった一枚の札
にも、あんなに執着できたんだと思います。あの一枚には実は一枚以上の
価値があったということです。そんな小生の「あまりてなどか」的体験、
自由研究に『百人一首』を選んだ子どもたちも知っているでしょうか。

昭和の大人は、子どもを突き放すことにも繰り返しつきあったのだなぁと
最近思うのです。それは随時密着して世話を焼くことよりも、実は必要な
体験だとは思いませんか?


(2010年01月14日)

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