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近いのに、遠い国

第91回 中国だけど韓国①

私が韓国人と初めて接触したのは今から約10年前。留学先の中国で。

今でこそ韓流ブームで、毎日のようにTVには韓国ドラマが流れ、韓国語が聞こえてくるが、当時は韓国の「か」の字も日常生活で耳にすることは無く、それまで、韓国について「隣にある国」という認識しかなく、どんな国なのか、その国の人たちはどんな言葉をしゃべるのか考えたことも興味を持つこともなかった。

ハルビンの大学の寮に着いたら、前髪の長い男の子たちが(当時韓国ではアイドルグループの影響で、前髪を目の下くらいまで長く伸ばすのが流行っていた)何も言わなくても私たちの幾つもある重いスーツケースを私たちの部屋まで運んでくれた。日本人留学生の先輩が「彼らは韓国人よ」と言った。そのとき、私には彼らのしゃべっている言葉が中国語なのか韓国語なのかもわからなかったが、彼らがとても親切だというのは感じた。

私たちは、すぐに簡単な英語とカタコトの中国語で交流した。驚いたことに、彼らの中には平仮名が読め、日本語の簡単な単語は理解できる人が何人もいた。韓国では高校から第二外国語があって、当時日本語の人気は高く、彼らも高校時代日本語を選択していたのだった。韓国人は、挨拶するときにお辞儀したり、目上の人に敬語を使ったりするので、日本の文化と大変似ていることに気がつく。そのうち、中国語を使って韓国語を習うようになり、「マシッソヨ」「アニエヨ」など語尾に「ヨ」がつけば、敬語だと教えてもらったり、(後に韓国語を学んで、そんな単純なものではないと分かるのだが)、韓国語は文法が日本語と同じで、発音もしやすいことを知る。

ハルビンの大学は、日本人はたったの10人。韓国人は私たちの5倍以上在籍しており、寮や中国語クラスの中は完全に韓国化していた。韓国人留学生は数も多いのだが、日本人は1ヶ月~2年の短期留学者が、韓国人は本科までを終了する目的の4~6年の留学生が多かったので、必然的に寮も学校も長く滞在している韓国人のカラーになってしまう。一体自分はどこに留学しているのだろう?と思うこともあった。

隣の部屋からは韓国の音楽が大音量で聞こえてきて、食事の時間にはキムチのにおいがする。韓国人留学生は「スープとキムチがないとダメ」といって、学生食堂で食べることはせず、自炊か韓国料理専門店で食事していた。韓国人のお姉さんたちは、よくキムチをつけていたので、そのときは作り方を教えてもらったりした。留学生の中で年が上の人たちは、自分たちを「オッパ(お兄さん)」「オンニ(お姉さん)」と呼ばせた。「韓国にいるわけじゃないのに、なんでそう呼ばないといけないの?」と抵抗していた日本人留学生もいたが、結局最後には「○○オッパ」と呼んでいた。

オッパやオンニたちは、年下の私たちの面倒を良く見てくれた。ご馳走してくれたり、病気になったら看病してくれたり。韓国人同士でも年上は年下の世話をよくするのだが、彼らの関係を見ていて、上下関係が日本より厳しいことにすぐに気がついた。特に男性の場合は。年の若い子たちは絶対に年上のお兄さんたちには逆らわない。お兄さんたちの中には武術留学で来ている人たちがたくさんいて、体格もいいし、外見もちょっとコワモテな人が多かったからかもしれないけど・・・。いつも訓練用の槍や剣を持って歩いているので、弟たちは震えあがっていた。

オッパたちはもう徴兵を終えて来ているひとばかりで、まだ軍隊には行っていない若い子たちとはやっぱり全然雰囲気が違った。まだの子たちは、あどけない少年と言う感じ。日本の同世代の男の子たちよりも幼く感じた。オッパたちは、さすが軍隊に行っているだけあって、料理も一通りはできるし、自分のことは自分できちんとやりますというような人が多かった。オッパたちはスラング・・・というか罵り言葉が大好き。挨拶のように使っている。「軍隊に行くとこうなるのさ」と言って彼らは笑うが、いつもそばで聞いている私たちは「ヨク」と呼ばれるその罵り言葉だけをいくつもしっかりと覚えてしまったのであった。

仲のいいクラスメイトが軍隊に行くと言って、帰国していくことがたびたびあった。みな韓国男児である以上仕方ないというあきらめと、これから始まる過酷な生活を覚悟していると口にした。軍隊生活の過酷さは、オッパたちに何度も聞かされていた。中国で韓国人と交流して、初めて知ったことだった。徴兵制のない今の日本では想像もできないことだ。改めて、38度線で隔てられた韓国と北朝鮮の状況を考えさせられた。中国に来なかったら、それについて深く考えることはきっとなかっただろう。



(2009年04月09日)

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