韓国で。韓国語学校の休み時間、クラスメイトの劉峰(リュウフォン)を探しに喫煙スペースに向かう。たばこを吸う生徒は、休み時間の度にそこで休憩している。
喫煙スペースをぐるりと見渡したが、劉峰の姿はなかった。教室に戻ろうとしたら、そばにいた別のクラスの中国人の男の子二人が「日本の女の子ってさ…」と中国語で話しているのが耳に飛び込んできて、面白そうなのでこっそり内容を聞いてみることにした。
「日本の女の子ってさ、たばこ吸うコ多くてびっくりしない?」
「そうだな、ここで吸ってる女の子って、ほとんど日本人だしね」
彼らの目の前では、日本人留学生の女の子数人が、談笑しながらたばこを吸っていた。中国では、女性の喫煙率は高くないので彼らの驚きもわからないでもない。外で女性がたばこを吸っているのはほとんど見ない。彼らと同じことを日本に来たばかりの留学生が言っていたのを思い出す。
(韓国でも女性が外でたばこを吸うことはほとんどありません。儒教の精神も関係あると思いますが、韓国では女性の喫煙はマイナスイメージが強く、厳しい眼で見られます。中国留学中、吸っている韓国人留学生の女の子もいましたが、部屋に鍵をかけて隠れて吸っていました。)
「で、日本の女の子どう思う?」
「いいよね~!優しくて、男に従順っていう話だよね。結婚したら、家事一切はやるし、だんなのためになんでもやってくれるんだって。靴下まで履かせるんでしょ。」
「正座して朝、だんなの出勤を見送るんだってね」
「だんなに殴られても、抵抗しないって話だよ」
「それに、日本人と付き合ってる奴が言ってたけど、イメージどおりすごい開放的らしいよ。」
「マジ?やっぱそうなの?羨ましいな~」
はぁ?ちょっと待って…靴下まで履かせる?殴られても抵抗しない?で、開放的!?そんな都合のいい女がどこにいるというのだ…。ふきだしそうになるのを懸命にこらえる。
中国人にも韓国人にも(他の国の人にもそうかもしれないけど)、日本の女性は「ヤマトナデシコ」というイメージが未だに定着している。特に中国人には、以前日本の古い映画がいくつも放映されていたということもあって、その中の日本人のイメージ、男性は亭主関白、女性は家庭的で大人しく、でしゃばらず、三歩さがってついてくる「ヤマトナデシコ」で夫に従順である・・・が定着している。想像をふくらますのは結構だけど、そんな女の子はもう絶滅しかけた天然記念物だよ、と彼らに教えてあげたかった。
日本人は開放的だというのも、中韓の人によく言われることなのだが、残念ながらいい意味で言われていない場合も多い。インターネットで流れている成人向け動画等はほとんど日本のものだし、メディアやネット上で紹介されている日本に関する記事も性に関するものが多い。日本は温泉が多いので知られているが、日本の温泉がすべて混浴だと思っている中国人もいる。悲しいかな開放的という言葉には「性的に」「軽い」という意味も含まれている。これについて、何度お隣の国の人たちと議論を戦わせたことか。
でも、否定しきれない部分があることも確か。韓国人の女の子は、儒教の影響もあり、あまり露出した格好はしない。中国では、男女の間で性に関する話題はタブー。付き合う=結婚、と考えている人がまだまだ多く、私の友達の中にもだんなさん以外と付き合ったことがないという人がたくさんいる。こういう点を比べると、確かに日本人は開放的だと言えるのかもしれない。
ちょうどそのとき劉峰が入ってきて、二人からわざと視線をずらして、笑いをこらえている私を見つけた。そして、私の目の前で二人が日本の女の子について白熱したトークを繰り広げているのに気づくと、
「お前らさぁ、よく堂々と話せるね。ここに日本の…」
と私を指差して言おうとしたのであわてて「シイッ」と、彼を制す。
二人が私に注目する。察した彼は、
「あ、えーと、彼女はクラスメイトの劉…、劉佳佳(リュウジアジア)。」
と、私をとっさに中国人にしてくれた。挨拶もそこそこに逃げだした私の正体は、数日後他のクラスとの合同授業でばれてしまうわけだけど、日本女性に対するなかなか興味深い中国人の率直なイメージを聞けて(盗み聞きだけど)よかったと思う。

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