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第22回 すみません、鼻血下さい

韓国にいるとき、日本語の授業の準備をしていたら、生徒から電話がかかってきた。
「先生、今日は私、痛いので休みます」
彼女は習っている日本語で休む理由を伝えた。彼女が痛い、痛いと言うので怪我でもしたのかなと思いながら詳しく聞くと、風邪をひいたのだという。そのときは、彼女が「痛い」という表現をしたのに違和感を覚えつつもそんなに深く考えなかったが、その後、他の生徒も同じ表現をしたのを聞いて気がついた。

韓国語では、風邪をひくなど具合が悪いことを、「痛い」と表現する。昨日体調が悪かったという時に、「昨日、熱出て痛かった」「大丈夫?すごく痛かったの?」などという会話をするし、親しい人に対して「痛がらないで」などと言ったりする。これは「痛がらない」、つまり、「具合が悪くならないように」「元気でいてね」という意味。韓国語でそのように表現するので、日本語を勉強し始めた人たちは、何の疑いもなく日本語でも同じように表現すると思っている。「痛い」という単語はかなり初めの段階で習うことになっていて、日本語では「具合が悪い」とか「体調が悪い」という表現をするという話を、私はわざわざそのときに教えるようにしていたが、生徒は韓国語との違いに驚いていた。
 
「私は白いの服を着て、黒いの靴をはいています。でも、赤いの服が好きです」
これは、日本語初級クラスの中国人の作文。中国語では「黒色的帽子」「白色的衣服」など、基本的に形容詞と名刺の間に「の」に当たる「的」が入るので、もちろん日本語でも「の」が間に入ると思っている。この形容詞と名刺の間にはいる「の」に関しては、何年も日本にいてもなかなか直らず、このように使い続けている人もいる。

外国語を勉強するとき、最初にベースになるのは母国語だ。母国語でまず考えて、この文は○○語ではどのように表現するかと考えるので、最初のうちは母国語の表現の仕方にかなり影響されるし、束縛される。自分の国の言葉ではこう表現するので、他の国でも当然そのとおりに表現するとみな思っているのがとても面白く、興味深い。

母国語の影響を受けるのは、表現とか文法だけではなく、発音もそう。韓国には日本語の「ざ・ず・ぜ・ぞ」の発音がなく、最初はこれらの音を正確に発音することができず、「じゃ」「じゅ」「じぇ」「じょ」と発音する人がほどんど。「わじゃわじゃ、ありがとごじゃいます」「じぇんじぇん分からない」などとなる。日本の任侠映画を見て、悪い言葉を覚えたと、韓国人のお兄さんが嬉しそうに「オマエ、殺すじょ」と言った時にはひっくりかえって笑った。可愛すぎる・・・。

中国人は中国語にない小さい「っ」が苦手。「さき、がこうにいてきたよ(さっき学校に行ってきたよ)」などと話す。中国語は鼻に抜ける鼻音が多いし、口を大きく開けて発音するので、その癖が抜けずに日本語を発音しようとすると、いかにも外国人という違和感のある音になってしまう。その発音が定着してしまい、何年もそのままの人もいる。

日本人も例外ではない。日本語は音が少ないので、韓国語の中でも中国語の中でもコツを摑むまで、発音できないものがたくさんある。たとえば、韓国語には「コ」の音がふたつあるが、韓国語の「コーヒ(커피/コピ/この「コ」は、「カ」を発音するように口を大きめに開けて発音する)」を発音できずに、「鼻血(코피/コピ/この「コ」は日本語の「コ」より口を尖らせて発音する)」と発音してしまい、喫茶店で店員に「すみませーん、鼻血ひとつ下さい」と言ってしまい、韓国人に大爆笑されるということがある。

頭の中で母国語から外国語に翻訳して話すのではなく、外国語は母国語とは違うのだと認識して母国語と切り離し、その国の表現で考えて話すようにすると上達が早くなる。発音は、母国語にないものは急にはできないので、練習が必要。ネイティブの音をよく聞き、特徴をとらえて真似するようにしていれば、だんだん近づいていく(はず)。発音が正確だと、語彙数が少なくても上手く聞こえる。

ときどき、日本人にしか聞こえない日本語を話す外国人に出会うと、刺激をもらって、自分も頑張らないといけないなぁと思う。

* 編集部注 ブラウザの設定によって、中国語・韓国語が表示されない場合が あります。表示させるためにはフォントをインストールしてください



(2007年11月15日)

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