北海道のみなさん、こんにちは。
CMを作っていると、ごく日常的に、
「シズル感」という言葉を使います。
シズル感とは、食べ物、飲み物などの商品を、
映像でいかにおいしそうに見せるかの表現のこと。
英語でsizzle、本来の意味は、
揚げ物がジュージューいっている様の擬音語だそうです。
日本のコマーシャルは、そのシズル感の表現が苦手だと、
ずっと言われていました。
でも、80年代も後半になると、
自社の商品をいかにおいしそうに見せるか、
そこにこだわり、「シズル感のある表現」を
コマーシャルの主役にすえることで成功を収める
クライアントが現れるようになっていきました。
その代表が、アサヒビールと味の素です。
当時、頻繁に海外ロケに行くようになっていたので、
外国、特にアメリカで見るビールのコマーシャルには、
日本にはないシズル感があることに気がつきはじめていました。
ぼくも、そして多くのクリエーターたち、
おそらくクライアントも。
ビールの泡とか、冷えたグラスの水滴、
ビールの瓶や缶から水や氷が滴り落ちる。
そんな、まさに「シズル感」あふれる表現のオンパレード。
でも、これには、理由がありました。
アメリカのCMでは、人がビールを飲むシーンを
写してはいけないという規制があったのです。
未成年への配慮や、アルコール依存症が
深刻な社会問題になっていたこともあるでしょう。
なるほど、よく見ると、人は出ていても、
ビールを持っていたり、乾杯したりしているだけ。
ビールに、一切、口をつけていない。
でもまるで、おいしそうに飲んでいるように、思える。
そのために、しつこいくらいの工夫が施されていたのです。
それに対して、日本のコマーシャルは、
タレントがいかにおいしそうにビールを飲むかに、
表現のポイントがありました。
(基本的に、それはいまも変わっていませんが。)
でも、タレントよりも、ビールそのもの、
ビールのおいしそうな感じを、
コマーシャルの主役にしてもいいのではないか、
そう思うクライアントが登場したのです。
それが、アサヒビールでした。
アサヒスーパードライの登場と共に、
アサヒビールは、シズル感の表現に力を注ぐようになります。
一方、食品でも、もっと商品のおいしそうな表情を
真正面から表現した方がいいと考えるクライアントが
現れました。
味の素です。
ぼくも、当時、盛んに味の素のコマーシャルを手がけていました。
そして、ある日、宣伝部長が
こんなことを言ったのをよく覚えています。
「タレントの撮影が終わると、スタジオの隅っこで、
商品やシズルを撮る。ほんとうは、商品が主役なはずなのに、
ついでに撮るみたいに。おれは、あれが許せないんだよ。」
確かに、そうでした。
有名タレントに、何をさせ、何を言わせるか。
表現のポイントはそこにあり、
スタッフ一丸になって、それに集中する。
そして、タレントが「お疲れさま」と言って出て行った後、
急にスタジオが暗くなり、
商品を置く台の周辺にスタッフが集まり、
小さな商品を取り囲んでいる。
ぼくらは、別に、気を抜いているのでも、
いいかげんに撮影しているのでもなかったのですが、
タレントを撮る時に比べたら、いかにも地味。
もっと、商品そのものを主人公に!
クライアントがそう思うのも
無理もない光景だったかもしれません。
そして、その後、味の素は、
アメリカのスタッフを起用して自社の商品のシズルを、
撮影するようになります。
たとえば、冷凍食品の食材を「炒める・揚げる」、
ドレッシングやマヨネーズの
「みずみずしさ・とろみ感」を出す、という具合に。
アメリカの、食品のシズル専門のスタッフに
自社の商品を撮影してもらうため、
クライアントや日本のプロダクションが、
ニューヨークまで頻繁にでかけているのを、
ぼくも身近に見ていました。
確か、アサヒビールでも、同様に、しばしば
アメリカのスタッフを起用してシズルを撮っていたはずです。
もちろん、それには多額の費用がかかります。
でも、味の素もアサヒビールも、
シズル感をコマーシャルの中心にすえ、
それに力を注ぐことで、めざましく業績を上げたのですから、
その甲斐は、十分にあったのだと思います。
このブログ記事を参照しているブログ一覧: 第83回 おいしいを、CMで②
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