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第73回 ぼくの、代官山物語 ⑩

北海道のみなさん、こんにちは。

昨日、知人のブログで、思いがけないことを知らされました。
代官山に27年間あった喫茶店が、先月末、
ひっそりと閉店したことが、そこに書かれていたのです。
フォリオという名の、その喫茶店は、
代官山郵便局のあるビルの地階にありました。
7〜8名の客が座れるカウンターに、
確か、大きなテーブルがひとつと、小さなテーブルがふたつ、
決して大きな店ではありませんでした。
ネルドリップで入れた深煎りのコーヒーがおいしくて、
一息つきにぶらりと行ったり、人と会う場所にしたり。
そうそう、代官山に住んでいる間、
毎日事務所やうちで飲むコーヒーも、
ほとんどそこで買ったコーヒー豆で入れたものでした。
いまでは、懐かしい思い出です。
そして、また、ひとつ、残っていた火が消えた思いがします。

ぼくのいま住んでいるところから都心に出かける時、
よく代官山を通ります。
いまでも、時々、ショッピングや食事に行きます。
でも、いつ行っても、代官山は落ち着かない。
旧代官山東急アパートがなくなり、
同潤会アパートがなくなった後も、
次から次へと古いビルが壊され、
代官山の街から工事音が絶えたことはありません。
できた端から、ファッションや飲食の店がオープンしては、
数年で姿を消して行きます。
代官山という街は、一見したところ、
相変わらずバブルに浮かれているみたい。
それなりに静かで安定した流れだったところに、
お金という名の水が大量に流れ込み、
泡(ショップ)が浮かんでは消えて行く。
そこに生息していた魚たちさえ、急激な流れに押しやられ、
いろんな外来種がやってきては去って行く。
そんなイメージでしょうか?

ぼくも、その「押しやられた魚」のようなものかもしれません。
代官山から逃げるように引っ越したいまの家に住みながら、
ぼくはずっと、自分が長く住む場所、
年寄り臭いかもしれませんが、「終の住処」がどこなのか、
考えあぐねています。
代官山という街には、一生ここに住んでもいいと思うイメージがあった。
仕事と生活が、分ちがたく、ひとつの点として、そこにあった。

そして、かつて、ファッションやマスコミが作り出す
文化と産業が、もっと元気だった頃、
東京には、代官山や、ある時期の原宿のように、
似た嗅覚を持った人間(いわゆる業界人)が集まる場所があった。
その嗅覚を持った人たちは、自然と住宅と商業の、
古さと新しさの、絶妙なバランスを持った街を見つけ出す名人だった。
東京の、とある街に、そんな人種が集まっては、
束の間のリトル・ニューヨーク、リトル・パリが、誕生する。
その後を、資本の波が、追いかけてきて、
見事にTOKYOという名の消費社会に変えて行く。
そして、そこから、古さと、自然と、住宅が、
つまり文化が、跡形もなく消えて行く。その繰り返し。
かつての六本木が、かつての青山が、広尾が、そして原宿、
代官山が、そうやって壊れて行った気がするのです。

ぼくが、もっとも忙しく仕事をした30代、40代を振り返ることは、
とりもなおさず、バブルの時代とは何だったのかを
振り返ることでもあります。
バブルは終わったのだと言われています。
でも、それは経済と景気の話。
消費のバブルは、ますます激しさを増している気さえします。
相変わらず、新しいビルを建て続け、
需要と消費を拡大することにしか、未来を見出せない。
むしろ、バブル崩壊以降の、いまに至る時代にこそ、
深い問題が潜んでいるのではないでしょうか?
ぼくらはまだ、「バブルの後」を生きる価値観が見出せていない。
代官山は、まるで「未来に向かって逃げ続けている」街のように、
ぼくには思えるのです。

ぼくは、なぜ、代官山に戻る夢を繰り返し見るのか。
そのわけは、たぶん、こうです。
中心に、戻りたいんです。
仕事と暮らしが、夢と現実が、ひとつになっている場所に戻りたいんです。
いま、その中心は、かぎりなく空洞にちかい何か、なのかもしれません。

IT長者が、六本木ヒルズに集結して話題になったこともありました。
でも、そこに文化が生まれることはないでしょう。
きっとどこか、まだあまり知られていないところに、
次の時代のカルチャーを担う人たち
(お金よりもアイデアをたくさん持っている人たち)が、
ゾロゾロと、自然に集まっているのかもしれない。
ぼくの嗅覚が確かなら、いつか、そこに、
ぼくも「帰って行く」のだと思います。

(ぼくの、代官山物語・終わり)


(2009年04月02日)

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