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第63回 CMに、もっとドキドキを!

北海道のみなさん、メリー・クリスマス!

今年最後のコラナビは、今年最後の撮影で思ったことを。
それは、つい先日のこと。3日間かけて、CMとしてはかなり大掛かりな撮影になりました。スタジオに、リビングやキッチンの、大きな セットを組んで。ロケは、電車のなか、映画館、公園、レストラン などで。場所によっては、100人単位のエキストラを入れて、日数こそ少ないものの、ちょっとした低予算の映画が作れそうな、規模と予算でした。
これを、彼に見せてあげたら、勉強になるな、とぼくは思いました。
ぼくの友人の息子さんが、東京の芸術系私立大学で、映像を専攻しています。いつか、撮影現場を見せてあげるね、と約束していました。

有名な役者さんと、劇団に所属する看板女優が出演して、映画を得意とする優秀なカメラマン、大掛かりな照明に、録音技師や、移動撮影用の装置とそれを動かす人。CMプロダクションのスタッフの他に、映画の助監督までいます。大勢のスタッフが動く、映画さながらの撮影現場は、学校の課題で、ショート・フィルムを作ったりしている彼にとっても、多いに刺激になったはずです。

でも。これが本当にCMの撮影現場としておもしろいものだろうか?次第に、ぼくは疑問に思うようになりました。未来の映像産業を担うことになるかもしれない若者に、CMってすごいな、おもしろいな、とリスペクトされるものだろうか?

駆け出しのCMディレクターだった20代のぼく。場所は、ロスアンゼルス。街中に、初めて何十人のエキストラを入れての撮影をしました。ぼくは、前の日、ほとんど徹夜で、どうエキストラを動かしたらいいのか、図に書いて作戦を練っていました。いや、都会の、日常のひとコマを再現するには、通行人としてエキストラを入れたらいいのだということすら、ぼくには思いもよらないことでした。
30になったばかりの頃、ぼくは撮影現場で、自然の音や人の声を、映像と一緒に録音することを思いつきました。え!?この企画で、この撮影に、録音技師が必要なの?制作会社の人たちからは、 疑問に思われたものです。
その次には、出演者に台詞を言わせることを思いつきました。台本のようなものを書いて、出演者に渡す。CMで、そんなこともできる。CMから声が聞こえてくるとすれば、商品の説明が主流だった時代。なんだか、すごい発見をした気持ちになりました。
その頃、ぼくはカメラを動かすことに夢中になっていました。普通なら、カメラを固定して撮るところを、カメラを移動させて撮ったらどうだろう?それも、鳥の目線のように。またある時は、カメラをテーブルの真ん中に吊るし、360度回転させて食事をする人たちの表情を撮ったり、螺旋階段の上からカメラを引き上げ、階段を上る人を撮ったりもしました。まるでヒッチコックの映画のように。
東京の商店街で撮影した時のこと。2~30人のエキストラを入れるのに、制作会社の人が、映画の助監督を呼んでくれました。それまでは、すべて自分でエキストラを動かしていたぼくは、そんな手があることすら知らなかったのです。

大勢のエキストラ、同録(サイレントのカメラで現場の音を撮影と同時に録音すること)、カメラの移動撮影、助監督という存在。ぼくも、CM業界も、かつては知らなかった映画的な撮影手法が、いまでは日常のものになりました。そして、気がついてみれば、CMには、実に多くの有名タレントが出演し、スライス・オブ・ライフ、日常のひとコマを描くCMが圧倒的に多くなりました。映画さながらの撮影、まるで映画の断片を集めたようなCM。それは、いまでは、ぼくや、多くのCMディレクターが、得意とするものになりました。

でも、その一方で、振り返ってみると、これはさすがにCMにしかできないだろう、という撮影が本当に少なくなった。15秒や30秒を、たったワンカットで表現するCM。とにかく、ギャグで笑わせるCM。素朴に、タレントが商品を持って、トークするCM。音楽 もナレーションもないCM。全編モノクロのCM。ひたすら美しいシーンのCM。不思議な映像に、不思議な音楽がついた、実験映像のようなCM。少なくても90年代のはじめ頃まであった、そんな 「CMならではのCM」が、すっかり影が薄くなりました。
そしていま、CMは、とてもわかりやすいものになっている。とんがったアイデア。ドキドキする展開。ばかばかしいほどの実験精神。頭にこびりついて離れない言葉。そういうものが、めっきり減ってしまった。CGや映画の手法を飲み込んで、老練にはなったけれど。

3日間の撮影現場に付き合った、大学で映像を学ぶ若者が、一体どんな感想を持ったか、ぼくはまだ、聞いていません。でも、そこに好奇心に満ちた視線を感じて、ふと思ったのは、どんなに予算があり、規模が大きくても、いまぼくらは、CMの撮影現場から、CMならではの活力、ドキドキ感をなくしているのではないかという思いでした。
CMには、こんなに予算があって、大規模なこともできる。ではなく、ほらね、CMって、ばかばかしいだろ?さすがにこんなこと、映画やテレビドラマじゃできないよね。むしろ、未来の映像産業を担うかもしれない若者に、そう言って笑いかけたかった気がします。


(2008年12月25日)

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