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第53回 撮影は食にあり⑥ 結局、和食党

北海道のみなさん、こんにちは。

海外へ撮影に行くと、どうしても和食が恋しくなるという人がいます。日本から、お茶や梅干しなどを、必ず持って行く人。中には、炊飯器にお米まで持参する人もいました。制作会社の若い人には、どこに行くにも、必ず、バッグにお醤油を忍ばせておいて、いざと言うとき、さっとそれを出す、という仕事があります。たとえば、ステーキなどを食べたとき、「だれか、お醤油持ってないかな?」と言い出すスタッフが、必ずいるから。和食屋が簡単に見つからない、僻地にロケに行くときなどは、大変。インスタントラーメンや、即席のみそ汁、レトルトのごはんやカレーなど、それだけでトランクがいっぱいになるくらい、食料を持って行くことになります。

ぼくは、と言うと、日本から食べるもの、飲むものを持って行くということは、一切しないようにしていました。海外に行く時は、気持ちが張っていたほうがいい。梅干しひとつで、気持ちがくじける。できるだけ、現地の、おいしいものを食べるようにしたい。この仕事には、適度な緊張感や、好奇心が必要。そう思っていました。

でも、それは80年代の終わりまでの話かもしれません。90年代に入って、世界的な和食ブームが起ったり、健康志向を背景に、どの国に行っても、伝統的な食文化が崩れて、アジア、イタリア、プロバンスなどの料理が入ってくる時代になりました。食におけるミックス・カルチャーが、急激に進んだのだと思います。

ニューヨーク、ロスアンゼルス、サンフランシスコ、ロンドン、パリ...。撮影でよく訪れる大都会の和食屋も、90年代を境に、大きく変わりました。和服を着た女性がお運びをして、お琴のBGMが流れ、SUKIYAKI、TENNPURA、SUSHIがメニューに並んでいるようなジャパニーズ・レストランや、アクロバットな包丁さばきでお肉をカットするTEPPAN-YAKIのレストランが影を潜め、料理もインテリアもモダンな和食のレストラン、 日本に負けないレベルの、蕎麦屋や寿司屋が登場するようになってきたのです。

かつて、海外の大都市の和食店と言えば、商社マンや旅行者でにぎわい、現地の食になじまない人たちが、肩を寄せあっているような、どこか、わびしい雰囲気が漂っていたものです。それが、あっという間に、現地の感度のいい人たちが、オシャレして和食を食べにくる。ジャパニーズ・フードは、ヘルシーでおいしい。バブルで、料理の世界でも、景気が良かったのでしょう。意欲的な店が、どんどんオープンする。いつしか、そんな時代になっていました。

ぼくよりも上の世代の、いかにも食通に見えるカメラマンやクリエーティブ・ディレクター。一流のものを身につけ、東京でも有数のレストランや和食の店に精通している。そんな人たちと、海外にいっしょに行って、ありがちなのが、「結局、和食を食べに行く」というパターン。
「◯◯さん、今晩の食事は、何にしましょうか?」
「そうだね、せっかくだからいま話題のフレンチに行ってみる?それとも、今日は、イタリアン?この時期、牡蠣を食べるのもいいね」などと最初は言っているのですが。そうこうするうち、「とりあえず、今日は、疲れたから和食屋にするか?」
最後には、決まってそう言い出すのです。
なんだ、結局、和食が食べたいんじゃないか。
そんな「結局、和食党」を、若い頃は、ぼくも冷ややかに見ていました。それが、40を過ぎたあたりから、自分が変わったのか、世の中が変わったのか、ぼくも、そのひとりになって行ったような気がします。堂々と、和食が食べたい!と言えるレベルの高い店も増 えました。パリやニューヨークなどには、東京の人気店と変わらないレベルの蕎麦屋もできました。SUSHIは、世界の料理になりました。「疲れたから」とか「早く寝たいから」と理由を付けては、結局、蕎麦屋や寿司屋に足が向いている。いつしか、ぼくもそんな傾向になっているような気がします。

食には、体力と好奇心が必要。
撮影という仕事にだって、それは欠かせない。
世界的な和食ブームとは言え、それを忘れてはいけませんね。


(2008年09月11日)

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