北海道のみなさん、こんにちは。
撮影という仕事に、なくてはならないのが、食事です。
朝早くから、集合して、撮影の準備を開始する。そこに、朝食がないわけにはいきません。ひとたび撮影が始まれば、お昼になり、夜になり、そして時には深夜まで。少なくても、一日3食、ともにすることになります。地方のロケに行けば、日が暮れて、ひと風呂浴びたら、食事時に酒を酌み交わし、大勢のスタッフが、まさに寝食を共にする関係になるのです。それが、撮影という仕事。
ぼくも、いまでは、出された食事を食べ、うまいだの、まずいだの、手を抜いただのと、口うるさく言うのですが、スタッフに食事を出す側だったこともあるのです。大学を出て、業界に入りたての頃、一年半ほどでしたが、プロダクション・マネージャーとか、制作進行と呼ばれる仕事をしました。名前は立派ですが、まだ右も左もわからないのですから、要するに、ただの使い走り。まず、最初にあてがわれるのは、スタッフへの食事の手配です。
ぼくの生涯最初の撮影現場は、西武百貨店、地下食品売り場のリニューアルを宣伝するCM撮影でした。ゆでたまごのクローズ・アップ。女性の手で、卵の殻を剥いて行きます。それを、後でフィルムを逆回転にして、たまごに、きれいに殻がつけられていくシーンにする。その上に、リフレッシュ・オープンというタイトル。確か、そんなCMでした。
15秒のCMで、いかに器用に美しく、卵の殻を剥いて行くか。その段取りを考え、手配し、準備を整えるのも、ぼくの仕事。できたら大きい方がいい、という演出家の希望を真に受けたぼくは、農業試験場に出向き、烏骨鶏の卵までゲット。(さすがに殻が固すぎて使いものになりませんでしたが。)本番当日、ぼくは、100個のゆで卵を用紙しました。いざというときのために、さらに生卵を100個。お湯の中に、お酢や塩を入れると、殻が剥きやすくなるというので、それも用意して準備万端。の、はずでした。ところが、いざ撮影が始まってみると、わずか10数秒の間に、卵の殻をきれいに剥くなんて、ほぼ不可能。あっという間に、200個の卵を使い切り、もう、大きいの、小さいのとこだわっている余裕さえなくし、とにかく「数打ちゃ、当たる」の精神で、卵を買いに走っては、茹でる、剥く、なかなかOKが出ない、の繰り返しでした。そして、遅めのお昼、スタッフへの食事の手配を命令されたぼくは、とりあえず、そば屋の出前メニューを手にしていました。そして、何を思ったか、「親子丼、カツ丼各20」とオーダーしていたのです。
おわかりですよね?ぼくが、どんなにひんしゅくを買ったかは。
何百個かの卵を剥き、それにライトを当て、カメラを向けていたスタッフたちの目の前に出されたのが、また卵。もう、当分、卵など見たくもないと思った人もいたことでしょう。スタジオのゴミ箱には、卵が散乱していました。
「えー!?」
あちらこちらで、悲鳴に近い声が上がりました。
「すみません!」
会社の偉い人が、頭を下げています。
「おまえなーっ!」と、にらみをきかす人さえいます。
その後のことは、よく覚えていません。
覚えているのは、その後、しばらくは、「あの時、親子丼をオーダーした奴」と言われたこと。そして、撮影という仕事では、どうやら、食事は、出せばいい、あればいいというものではないらしいということがわかったこと。
このブログ記事を参照しているブログ一覧: 第48回 撮影は、食にあり(1)初めての撮影現場で
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