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第42回 クレーム社会のCM(4)子犬とこども

北海道のみなさん、こんにちは。

以前、ある食品メーカーで、こんなCMを作ったことがあります。
お母さんが、何やら、子どもに向かって小言を言いながら台所に立っています。
「まっすぐ帰ってくるのよ」、「犬と遊んだりしちゃダメよ」、「道草しちゃダメよ」などと。
お母さんの言葉とは裏腹に、帰り道、たまたま子犬と出会った子どもは、河原で子犬と遊んだりして、道草します。
そして、家に帰ろうとする頃には、もう日が暮れかけています。
泣きべそをかきながら、走る男の子。
やっと家の近くまで来たら、お母さんが迎えに出てくれていました。
「おかえり」とお母さん。家では、あったかいシチューが待っている。そんな、CMでした。

道草、台所で小言を言うお母さん、子犬、河原の土管、夢中で遊んだ後の夕暮れ、その不安感。いまの子どもには、ピンと来ないかもしれませんが、少なくても昭和に子ども時代を送った人なら、どことなく思い当たるところのある光景ではないでしょうか?
少しノスタルジーを感じさせる、なかなかいい出来上がりのCMだったと思います。

ところが・・・。
「犬といっしょに遊んじゃダメよ」というお母さんの台詞や、「バイバイ」と言って、男の子が子犬と別れるシーンが、捨て犬を想起させるというクレームがクライアントに寄せられました。ペットを捨てる風潮を助長することにつながる。ある動物愛好家の方には、そう写ったようでした。
そこで、お母さんの台詞を「暗くなるまで遊んじゃダメよ」に、子どもの台詞を「またね」に変えて、再びオンエアーしたということがありました。
  
いまのぼくなら、もしかしたら事前に「この表現はマズイ」と思うかもしれません。そうでなくても、打ち合わせで、だれかがこう言い出すでしょう。「犬を捨てたみたいにとられられないかなぁ?」と。すぐさま、営業の人あたりが、広告代理店やテレビ局の考査機関に問い合わせます。そうすれば、間違いなく、やめた方がいいという結論が出るに違いありません。子どもが、子犬に出会ったり、遊んだりすることは、NGである。いや、そもそも、夕暮れに子どもが一人で遊んでいること自体、危険なので、そういう表現は避けた方がいい、と言われる確率が高いと思います。
つまり、いまなら、子どもが暗がりを一人で歩いているシーンは、世に出にくい。まして、誰かが捨てたような子犬と子どもが遊ぶシーンなど、ありえないということになります。
  
広告業界やテレビ局は、過去、さまざまな経験をした結果、すっかりクレームに対して敏感になり、チェック機関がずいぶんと整備されてきました。そうこうするうちに、ぼくらクリエーターでさえ、クレームがつきやすい刺激的な表現を避けて通る癖が、自然と身に付いてきています。困ったことに、どういう表現がいけないのか、はっきりとしたガイドラインもないまま、ただ、さまざまな憶測や詮索から、クレームを避けて通る傾向だけが、助長されて行きます。その結果、どういう表現が、人を傷つけたり、子どもに悪影響を与えたりするのかの、本質的な判断が、かえって置き去りにされているような気がします。


(2008年06月05日)

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