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第31回 最近のCM事情(4)CMに夢がなくなった理由

北海道のみなさん、こんにちは。

最近のCMには夢がなくなっている、ぼくはそう思います。
その原因のひとつは、CMの描く世界に、日常的な設定が、とても多くなっているからだと思っています。

撮影は、スタジオにセットを組む場合と、ネライの風景や設定の場所を探して、ロケする場合とがあります。気がついてみると、最近は、もっぱら後者、ロケで撮影していることがほんとうに増えました。
家のなかの、リビングやキッチンなどの設定でさえ、家をお借りして(実際に住んでいらっしゃる家、空き家、撮影用にレンタルしている家などさまざまですが)撮影する機会が増えました。
スタジオに大掛かりなセットを組む予算がない仕事が増えている、という現実もあります。が、そうでなくても、作り手自ら、できるだけリアルな雰囲気、自然の光を求めて、予算に関わらずロケで撮影したいと考える傾向にあるのだと思います。

以前は、あれほど頻繁に(多い時で10回以上)海外ロケに行っていたぼくですが、その機会も、ここ10数年の間に徐々に減り、いまでは年に2~3回になりました。
かつては、同じ日常的な設定でも、それを外国に置き換えてみようとか、同じ風景を撮るなら、少しでもインパクトのある、見たこともない風景にしようという意気込みが、暗黙のうちにクライアントにも伝わったものです。しかし、それも、ここに来て、もっと日常的で、ごくありふれた設定や親しみやすい企画が歓迎される傾向にあります。その代わりに、有名タレントを起用して注目度をアップしよう、そのために必要な費用なら惜しみなく出す。そんなクライアントが増えました。有名タレントが出ている以外は、平凡な企画という場合が、案外多いのです。

ここ数年、ぼくがCMの演出を依頼されるとき、いちばんよく聞かされる言葉は、「エモーショナル」です。「これは、エモーショナルなCMにしてください」と、よく言われるのです。日常、あまり使わない言葉ですが、どういうわけか多くのクライアントが好んで使うようになりました。
以前よく使われた言葉に「スライス・オブ・ライフ」というのがありますが、ちょっとそれに近いかもしれません。だれでも思い当たるところのある、生活の一場面を切り取って、消費者の共感を得たい。そんな思いを込めて、使われる言葉です。
まぁ、同じ「エモーショナル」や「スライス・オブ・ライフ」でも、それが、ごくあたり前に見える登場人物が宇宙人だったり(サントリー・ボス)、お父さんが話をする白い犬だったり(ソフトバンク)、豪華なタレントが束になって出ていたり(資生堂・TSUBSAKI)すれば、まだおもしろいのですが、よほど、ドキッとする、するどい切り口でもない限り、平凡で、ただのわかりやすいCMになりがちです。

もっと直接的に、クライアントから、「泣かせて欲しい」と言われることも、よくあります。最初のうちは、「泣かせるって、15秒や30秒で、それが無理だろう」と戸惑いましたが、実はこの言葉、CMを見る人をではなく、当のクライアント自身が泣きたい、そんな気持ちで出来上がったCMを見たいという意味があることに気がつきましした。笑いや、インパクトの強い表現より、ありふれた設定だけど、思わずほろっとするような共感のある表現が見たい。消費者と同じ目線で、ものを見ている。消費者の気持ちがよくわかるクライアントだと思われたい。消費者からだけでなく、自社の社員たちからもそう思われたい。どうやら、そんな強い欲求があるようなのです。

出す商品に、強いニュースがあることは少なく、消費者の手が届きにくい商品やあこがれの商品が少なくなった、この時代。環境や自然との共生、商品の安全性にも、強く配慮しなければならない、この時代。
親しみやすい、身の丈にあった、消費者だけでなくクライアントにとっても、わかりやすい、共感のできる表現が求められているようです。
その一方、予算や時間をかけて、クリエーターの力に賭けてみようという余裕を、クライアントがなくしています。(制作者にとって、これがいちばん深刻な問題なのですが。)
最近のCMに夢がなくなった原因は、そんなあたりにありそうです。


(2008年02月14日)

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